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天使は笑わない


「貴様・・・此処は一体何処だ・・・!?」

自分の部屋で、借りてきたAVを見ながら自慰行為をしている最中のことだった。
今夜は親が仕事のため家には俺一人。姉貴はいつも通り合コンかなんだろうし弟はどうせ今夜も夜勤で金を稼ぐことに勤しんでいる。
こんな絶好の夜はないと思った。
窓を閉め切ったことを確認して、お気に入りの女優のAVを流し始めてから何分経っただろうか。

唐突に目の前に現れた男の姿にギョ、っと目を剥き驚く間もないまま片手で首を掴まれ、そのままベッドに押し付けられた。
気道を押さえつけられているせいで空気の通り道が絶たれる。男が俺の目の前に現れてから、ほんの一瞬の出来事だった。いや、もしかしたら集中しすぎて気が付かなかっただけかもしれないけれど。

「っか、は・・・・・・」

やばい、このままでは俺は殺されてしまう。
どうにか首にかかった手を外そうと、両腕で解きにかかるが腕はびくともしない。なんだよこれ!
部屋の中にはAV女優の喘ぎ声と俺の空気を欲して喘ぐ音とが重なって異様な空気を創り出していた。


「暴れるな・・・静かにしろ」

「・・・っ、」

必死に頷く。
涎が垂れ生理的な涙がボロボロ落ちていく。酸素は残り少ない。死は着実に近づいていく。生まれてきて、初めて死を感じた。


「・・・此処は一体何処だ」

首にかけられた腕は外され、ようやく解放されたという事実に酸素を思いっきり吸い込み、せき込む。安堵の涙が一つ落ちた。


「はぁ、はあ、は・・・っ、」

「・・・私を召喚したのはお前か?」

「しょ、っかん・・・?」

ようやく落ち着いてきた呼吸。胸を押さえながら、いまだ乾きはしない涙目のまま目の前に立ちはだかる男を見上げた。

「どうゆう・・・」

「・・・お前からは、そのような力は感じられないな・・・」

それにこの世界は・・・酷く汚い。
綺麗に整った顔を歪めて、腕をさする男に目が奪われる。
白みがかった金色の髪で、真っ白な服に身を纏い、偉そうに腕を組む男。・・・不審者だろうか。
さっきっからわけのわからない事ばかりをぶつぶつ呟く男に悪寒がする。この男、普通じゃない。ていうかどこから入ってきた・・・


「お前、名前は?」

「っ、あ・・・俺、ですか?」

「貴様以外誰がいる。早く名乗れ」

「・・・相羽ユウキです、」

そうか、と満足そうに頷く男になおさら不信感が募る。さっきは殺されそうになったのだ。油断はできない。相手は強い。どうやって警察に連絡をしようか、いや反抗する素振りをみせたら殺されてしまうかもしれない。なら、ここはおとなしくしたがって・・・


「おいユウキ。何を考えている」

「あっ、・・・い、いえ・・・」

「・・・それよりも、その汚いモノを早くしまわんか」

そう言って冷たい目で俺のズボンを指差す男に、あ。と小さく声を漏らす。
すっかり萎えきっている一物をいそいそとパンツに仕舞い込みスエットをさ、っと上げる。部屋には未だ消していないAV女優の高い喘ぎ声が響き渡っていた。


「・・・」

「・・・」

テレビの電源ごと消して、音を消す。
それから少しの沈黙が続き、それを破ったのは耐えきれなくなった俺だった。


「あの、あなたは・・・」

「ああ、名乗っていなかったか」


私は、ミカエルと申す。
そう自己紹介をしだした男・・・改めミカエルさんにはてなを飛ばす。
は?ミカエル?外人?天使?

結局彼ミカエルが元の世界に帰ることができるのは、もう少し先の話となった。
それまでの話は、またいずれ機会があればどこかで。


END