燕の飛ぶ西の空を仰いで
ぐしゃり。
家に帰ったら卵は割れていた。
つい10分程前にそんな音を聞いて、もしかしたらとは思っていたけれどやっぱり思った通りだったようだ。
10個パックのうち3個が割れていてしまっていて透明の白身に包まれて破れた黄身が見えている。あーあ、と袋からパックごと取り出して机の上にゆっくりと置いた。
「・・・もったいないな」
空っぽの心で何も籠らない言葉を吐いてもただ空に消えていくだけだった。
◆◇◆
『帰るのか』
あちらへ。
彼にしてはとても慎重に言葉選びをしているように思えた。
幾千の敵を、圧倒的な力の差をも前にしても。何にも恐れをなそうとしなかった彼がひどく何かを恐れるように、逃げるように満天の星空を見上げた。
帰るとはどこのことだろうか。空っぽだった頭がうまく機能しなくて、どうやら脳は考えることを放棄したみたいだったから誤魔化すみたいに曖昧に笑っておく。
帰るとは、何のことだろうか。
本気でわからなくって、一切の表情を感情を消してみた。そうしたら自然と思い浮かんだ俺の元いた場所。暗くて、一人で、さみしい場所。
俺の居場所はここにしかないのに。あっちには、俺の居場所なんてないのに。
帰るなんて言葉、俺にはつかえない。
『行かなくちゃ』
左の指先がホロホロと崩れ落ちていく感覚に、もう時間切れだと薄く笑った。
崩れていく姿なんて仲間に見せたくない。だから抜け出してきたのだということ、彼にはわからないみたいだ。
珍しく悲しそうな表情をするアイクが、とても遠くに感じた。
『―ユウキ!』
俺はこの世界へ呼び寄せられた。
夢でも何でもない。本物の世界。
そして、出会った。仲間に、家族に。でも、俺の世界は―。
「帰りたくないんだ―」
真っ白に染め上っていく世界に、最後のこした言葉は届いただろうか。
世界へ落ちた雫が、確かに俺がいた証となりますよう。
「っ、ぅ・・・」
涙がこちらの世界へ落ちて、俺が帰還したことを世界へ知らせた。
END