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chance


「ジョーカー、紅茶淹れてくれ」

ガタン、音を立てて椅子へ腰を落とす。
普段の生活から随分荒っぽく扱っていたせいか椅子は元々高価で丈夫なもののはずが、背もたれに身体を預けると悲鳴のような嫌な音をあげた。
おかしいな、先月変えたばっかりのはずなんだが。
それでも気にせず背もたれに寄りかかり、未だに動く気配がない傍に立つ男に視線を移す。

「おい」

「自分でやれ」

「俺のこの姿みてよく言えたな。あと。もう少し上司に対する口の利き方考えろっての」

ジクジクと右腕から血液が滲み出る感覚が脈を打つ。身体中には切り傷擦り傷が数え切れないほどあって、新調したばかりの戦闘服も既にボロボロだ。
体は疲弊し、もう動きたくもない。とっとと手当てしてもらって寝たい限りだ。

「あんたは無駄に傷を作りすぎなんだよ、もうちょっとどうにかなんねーのか」

呆れたようにため息を吐きながら、紅茶のマグを取り出してくるジョーカー。その様子を眺めながら、まあこればっかりはどうにもなんねーわな。と右腕の傷をそっと確かめる。結構深いようだ、血が止まる様子が見えない。


「ジョーカー、悪い、先に回復頼む」

「うるせえ、少しは痛い目見ろ」

「口悪ぃなあ、」

おじさん傷ついちゃう。
コトリ、と卓上に置かれたマグにサンキュと笑う。それを嫌な顔して視線を注ぐジョーカー。
直属ではないものの何かと縁のある部下のような存在であるジョーカーだが、よく世話にはなっている。まったくどっちが上司だかわからんな。

「次は治療の方を・・・いっ!!!」

ジョーカーはライブの杖を構えたかと思うと、傷を抉るように杖の先で右腕を刺激した。
刺さるような痛みに顔をしかめる、ライブの先は赤く染まりなんとも汚らしい。

「って、なにやってんだおまえ!痛いわ!」

「上司は一体なにを返してくれるんですかね」

「うっ、それは・・・」

ため息を吐き出して、杖を振るジョーカー。その後に赤く光るライブの杖の先は俺の右腕を包み込んだ。

「もういちいち治すの面倒なんで、あんた俺の隣にいてください。俺が援護する。」

「あ・・・さんきゅう。お前、俺についてこれるのか?」

痛みが取れ軽くなった右腕にほっと胸を撫で下ろす。
さっさと俺に背を向けて、部屋から出て行こうとするジョーカーになんだかんだ言って面倒みいい奴なんだから。と笑う。
特に返事もないまま部屋の扉を開ける姿に、慌ててもう一度ありがとうな、と伝えた。

「それと、次からはちゃんと俺の援護頼んだぞ」

「・・・はいよ」

少し振り返って笑うジョーカーに、頼もしいもので。俺も笑みを漏らした。


end