大失恋少年
振られた。
そう言って、目に涙を浮かべる幼馴染にため息を吐き出した。
高校の帰り道、いつもの曲がり角をまがった少し先には家がある。今日はドラマの再放送あるから急いで曲り角を曲がった先にいたのは電柱に背凭れる近所のガキんちょだった。ガキだって言っても2つ下だから言うほど年は変わらない。所謂幼馴染というものだったがコイツは中学に上がってからはすっかり部活である野球に打ち込むようになってしまい、俺は俺でバイトだとか高校での付き合いってもんがあるから自然と遊ぶこともなくなった。まあ幼馴染なんてこんなものだろう。加えて年違いがあるのだから尚更交流は少なくなるもんだ。
何やら泣きそうな顔だったからとりあえずうちんち来いよ、と。お茶くらい出すぞ、と。
そんなこんなで実に何年かぶりに杉村を家に上げることとなった。
散らかった部屋の床を適当にかき分けて杉村を座らせる。
そして冒頭に至る。
「俺の前で泣くなよな」
「泣かねえよ・・・」
なんかあったんだろうとは思っていたが、よく言った中学生。
いや受験生とでも言おうか。
泣かないと強気なことを言っている割にグズグズと鼻を鳴らす杉村にどうしたものか、と考え込む。第一なんで俺にそれを報告しにきたんだ。お兄ちゃんに助け求めてきたのか。
「あのな?」
「ん・・・」
「すぐわかれっから。中学生なんて・・・いや、中学生に限らずだけど1年持てばいいほうだから」
まあ、稀にすごい奴らもいるけどな。と口に出さないまま心の中でそっとつぶやく。
杉村は感動なのかいまだ引きずってるのか目をうるうるさせながら俺をジイっと見つめる。そんな見つめられると、俺がなんて不純な心の持ち主なのか突き刺さるから見ないでほしい。
わかったか?と念を押すように言って杉村の生えかかった頭をグリグリと上から押し込んでやった。
「・・・俺、今日とまる」
「ああ―…は?」
「着替えてくる」
「・・・はあ。夕飯用意しとくから急げ」
立ち上がり、部屋を出て行こうとする杉村の背にそう呼びかける。
しょうがない。失恋の夜くらい好きにさせてやろうじゃないか。ため息交じりに俺も、と立ち上がれば杉村は顔だけ振り返って、顔を赤くさせてつぶやいた。
「・・・ありがと、兄ちゃん」
「・・・」
逃げるように出て行ってしまった杉村。顔を両手で押さえつけた。
「・・・かわいすぎ」
中3男子の兄ちゃん呼びとか、なにそれ。明日学校で自慢してやろ、ていうか再放送。
「・・・」
ああ、なるほど、アイツからしたら進●ゼミの頼れる兄ちゃん的存在なのか俺は。
でもまあかわいいから許す。
鼻歌交じりに、夕飯の準備をするため部屋を後にした。
END