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空のカナタ


夕焼けで赤く染まる海岸を走る同僚の姿をぼんやりと眺めながら、腰を落とした砂浜の砂を手で攫う。
まだ3月の冷たい風が頬を撫で、冷たく冷える。きっと彼はそんなことはないのだろう。
額に汗を浮かばせながらただひたすら青春を追いかける。汗を流して、涙を流さずとは真に熱い男だ。


「相羽先生ー!!」

「・・・?」

遠くの方で、ようやく足を止めたかと思った大迫先生はデカい声を張り上げて俺の名を呼んでいる。
何事かと反射的に立ち上がる。その拍子に攫っていた砂は手の隙間から零れ落ちていき、ああこれって儚いっていうんだろうな。と数学の教師のくせに瞬間的に情景を詠んだことに若干の戸惑いを覚えた。
卒業式だから、感傷的になっているんだ。いつもより、いろいろな変化や気持ちに気が付く。


「一緒に、走りましょう」

だから、そう言いながら笑う大迫先生がいつもと少しだけ違うことに気が付いたんだ。
息を切らし、汗を浮かべる大迫先生につられて笑みをこぼす。

「走るのもいいですけど―」

少し離れた距離がもどかしくって、声をちょっとばかし張り上げた。

「呑みに、行きませんか?」

驚いたように目を丸める大迫先生。
大迫先生とは対照的に少し冷めていると評判の俺は普段はできる限り同僚との交流を絶ってきたせいで交友関係はけして広いものとは言えなかった。
唯一大迫先生とはこうやってたまに放課後の"青春"に付き合っていたりしていたけれど呑みに行くなんて機会は0に等しかったし、むしろきっとどこか線引きをしていたに違いない。

それでも、俺だって人間。
今日ばかりは生徒たちの青春の終わりと始まりと、それから俺たち教師の青春について語り合いたい気分なんだ。


「付き合ってくれます?」

たまには、俺の青春に。
そう笑って、立ち尽くす大迫先生に自ら近寄ってからタオルを手渡した。


END