センタクモノ (HimChan)
ん……? あれ……? これ……。
乾いた自分の洗濯物を見て、俺はふとなにかおかしいなと感じた。
手にあるこのピンクのタンクトップ。記憶が正しければ確か、以前は白だったような気がするのだ。
もしや……と他のものも見てみると、型崩れしていたり、よれよれになっているのも見つかった。
グループ内ではそれぞれ担当が割り振ってある。洗濯担当のやつは……。
「……じゅ〜の〜ん〜〜!」
綺麗に染まったタンクトップを床に投げつけ、我らが天才マンネ、ジュノンのいる寝室へとすぐに走った。
実は洗濯物が元の形や色じゃなくなるという事件は決して初めてではない。以前にも同じことはあった。が、まあそんなこともあるだろう、と彼が慣れるまで待とうと思っていた。でもいい加減もう慣れるだろう!
はやる気持ちで、寝室の前に立った。しかし、慎重な俺は急に入るのもなんかあれだなと考えて、扉を少しだけ開き、中を探ってみることにした。
隙間から目を細めてそっと窺う。
どうやら寝室には他には誰も居ないみたいだ。ジュノンは二段ベットのうえでまったりくつろいでいた。
のんきにも、ふんふんふんと鼻歌混じりにスケボーの手入れをしている。
扉からいったん離れ、息をつく。
くっ……、かわいいな……。俺ちゃんと怒れるかな……。
五つ以上歳の離れたマンネ。どうも流されてしまって叱れず、ついつい甘やかしてしまいそうだ。
って、いかん! 振り返ってみろ、前にもこんなことがあったじゃないか。そう、過去に同じことが何回起きた……? 服はよれよれになるわ、色移りするわ、俺だけでなく他のメンバーのやつもだ。誰も文句を言ってないのか、気づかないのか知らないけど、もうだめだ!
ここはヒョンらしくビシッと!ビシッといかないと!
俺は深呼吸して、大きく息を吐き出した。そしてひとり頷き、心を決める。
バッと勢いよく扉を開けた。
「ジュノガ!!」
大きめの声で叫ぶ。ジュノンの肩がびくりと跳ねた。目を見開き、俺のほうを向いて固まっている。
ちょっとその顔がおもしろくて笑いそうになったが、口に力を入れてなんとか我慢した。きっと、いま変な顔だと思う。
「あ〜……ひょん……! なんですか〜……。あー、もうおどろいたじゃないですか〜……」
ジュノンは胸に手を当てしきりに目をぱちくりさせた。
ひるむなキムヒムチャン!
「『なんですか……!』じゃない! おまえ、洗濯担当だろう!?」
びしり、と指を突きつける。
「ええ、はい…?」
それがどうしたの、とジュノンはベットのうえから見下ろすだけだった。
おお、なんだきみ知らないのか!
本来の色ではない色に染められた自分の服のことを思うと、なんだか体温が上がった。
「俺の! 白い! タンクトップが! 綺麗な! 桃色に!染まってた!」
言葉の節々に皮肉を込め、その都度指を指す。
GO! GO! キムヒムチャン!
「まったく! それぞれ担当があって、みんなちゃんとやってるんだぞ? なのに、おまえだけが出来てなくてもいいなんて許されないぞ!」
がんばった! と、内心俺はガッツポーズを決めた。これだけ言えばもう反省するだろう、と俺は勝ちを確信していた。
けれども、それに反してジュノンの様子はまるで変化がなかった。そして一度ちらりと天を見上げると、手入れの途中だったスケボーを脇に置いてベットから降りてきた。
ジュノンはうちのグループで一番背が高い。当然、俺は少し見上げる形になる。末っ子といえども、背が高いヤツに怒るのはなんだか少し気が引ける。
「は、反省したか!」
ついついビビりながらも気張った。
ま、負けるなキムヒムチャン!
「ヒョン……そんなに大事だったんですか? そのタンクトップ」
まだ指を指していて中途半端に上がっていた手をジュノンに掴まれた。ジュノンは両手で包みこむように俺の手を握ると、俺の目線の高さまで少し屈み、困ったように眉をよせた。
その様体はまさに子犬のようだった。
「ごめんなさい、まだ僕上手にできなくて……、もう、ほんと……」
次第にジュノンの目まで潤んできているように見える。俺はなぜか焦ってきた。
このキムヒムチャンが、マンネで、まだ成人もしてないかわいい弟を泣かせてしまうなんてことになったら、他のメンバーは……!
その様子を想像して、身震いをした。
リーダーにはあきれられ、ヨンジェには蔑まされ、デヒョンには軽蔑され、ジョンオプには見損なった、なんて言われるかもしれない……。
それにいまさらだが、あのタンクトップは別にそこまで大事じゃない気までしてきた。
そうこうしてるうちにジュノンはついにうつむいてしまった。
い、いかん!
「あ! いや! そこまで気にしなくていい! 今日はヒョ、ヒョンに免じて許すから頼む泣くな! なっ?!」
掴まれてない手であたふたとなだめる。B.A.Pの母親なのに、子供を泣かすなんて俺はなんてママなんだ……。
小さい(体はでかいけど)この子が家族の元から離れてがんばっているっていうのに、なんで俺は……!
と、あれこれあたふたしていると、次の瞬間ジュノンは、
「ありがとう!」
と顔を上げ、にっこりと笑うとすぐに部屋から出て行ってしまった。
「え……いや、あの……」
彼の瞳にはもう涙もなかった。いったい、俺はなんだったんだろうという行き場のない気持ちだけが残った。
おお、とその場にへたり込んでいると、程なくして寝室のドアが開いた。
「ヒョンなにやってんの?」
「あ、ヨンジェ」
入ってきたヨンジェを見ると、彼はとても変な紫色のTシャツを着ていた。
真ん中のキャラクターの顔もくすんでいて、少しおかしい。
「あれ……お前そんな服持ってたっけ」
と俺が問いかけると、ヨンジェはTシャツを掴み、あ〜、と笑った。
も、もしや。
「ジュノギが失敗しちゃった、って」
「え、」
「でもかわいくて怒れなくって! なんかよく見ると綺麗に染まってるからいいかなぁって」
あっはっは、とヨンジェは豪快に笑った。
その様子を見て、ああ、もう白い服はやめようかなと俺は思った。