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瞳から始まる恋 (ChanYeol)




 高校三年生になった春。何故だかこんな時期に転校生がやって来た。そいつの名前は   ……えっと、なんだったっけ。実のところ、俺はよく覚えていない。
 これを言ったら俺のことを、なんて非情なクラスメイトなのだ、と思うのかもしれないが、思った人はどうか、訂正をしてほしい。正直言って俺は悪くないはずだ、と思う。
 というのも、転校してきたやつはまるで空気のように存在感も無ければ、ひとっことでさえ喋りもしないのだから。大袈裟ではなく本当に、冗談抜きで俺は転校生の声を聞いたことがない。話してる姿も見たことない(いや、空気過ぎて忘れてるのかもしれない)。
 それに、長い前髪や厚い眼鏡のせいでどんな顔かさえもわからないのである。
 とまあ、そんなこんなでそいつはまるで地味なやつだったから、酷い話だけれど不良に目をつけられるのも遅くはなかった。

   んだコラァ!」

 始まった。俺は深くため息をついた。昼休み、パシリの転校生が買ってきたご飯に対して不良たちが”またもや”怒り始めたのだ。怒声をあげ机を蹴る不良に転校生は声もなく謝る。そして、また買ってこいという新たな命令に、文句やたじろぎを見せることなくそいつは教室を出て行った。
 俺は昼飯の焼きそばパンを頬張りながら、教室で騒ぎ始めた不良たちに目を合わせないように窓のほうを向いた。目の前にいるギョンスも大きなお弁当を手に持って、同じように窓のほうを向く。からあげを頬張りながら、ギョンスが言った。

「また間違えたんだね」
「……ああ、うん」

 ”また”とはその文字通りのことある。また、彼はやったのだ。買ってこいと言われたものを間違えて、もしくは無かったから、別の物を買ってくるのである。彼は一週間に一回は間違える。そして、怒鳴られ、または殴られ。
 彼は存在感がなく、喋りもしなければ、言ったことも聞かない。と、これまた変わったいじめられっこであった。
 かわいそうだとは思う。思うけれど、俺も他のクラスメイトたちもそいつを助けることはないだろう。やっぱり、自分に矛が向けられるのが嫌だからである。
 もぐもぐと、もう一口、焼きそばパンにかぶりついた。

「なんなんだろうね」
「……ああ、うん」

 だけれども最近、俺はそんな自分自身に疑問を感じ始めている。見て見ぬ振りしていいのか……と。まあ当然よくないに決まっているけれど、こういうとき、自然と立ち上がることのできない自分が腹立たしくて。
 俺はいつの間にか深いため息をついていた。ギョンスの目玉がぎょろりと動いた。

「なんか悩み事?」
「んー、うん、まあな」
「最近ため息多いよ」
「そうなの?」
「そう」

 ふうん、とご飯を詰め込み、再び窓の向こうへ目を向けた。外にある桜の木は花などとうに散っていて、葉が青々と茂っていた。もうすぐ夏も来る。そう考えれば、転校生が来てからもう数ヶ月過ぎていることに気がついた。
 それなのに、一回も喋らないで。
 下唇をやわく噛んだ。きっとこのままいったら彼とは会話せずに卒業していくんだろうなあと思った。彼がどんな性格で、どんな風に話して、笑うのか。俺は何も知らずに別れてしまうのだろうか。

「あ、またため息」
「……、ううう〜……」

 頭を抱えて掻き回す。
 悠々と白が浮かぶ空を俺は見上げて、心の中で問い上げた。
 神様、俺はどうしたらいいのかな……!
 と、そのとき、見計らったようにチャイムが鳴った。

 結局、今日一日俺があいつに話しかけることはなかった。体育のときにサッカーボールをわざとぶつけられてても「大丈夫?」と声さえかけられなかった。授業の後に、あざになってしまったところを冷やしているのも見たのに。
 一度考えればどんどんと自分に自己嫌悪がつのっていく。俺ってばひどいやつだよなあ、と。
 だけども、ていうか、なんで俺がこんなに悩まないとならないわけ? 別に気にしないで見てみぬ振りをすればいいのに、と、部室のベンチで悶々としていると、隣にクリスヒョンが座ってきた。

「なんだそんな顔をして。さては、悩み事か」
「あ。……ああ、はい……」
「やっぱりなあ」

 クリスヒョンがやさしく笑った。汗だらけの身体を拭きながら、話してみろよ、と言った。俺は小さく頷いた。さすがに一人で考えているのもそろそろ疲れてきたので話すことにした。
 放課後のマクドナルド。ポテトが揚げ上がった音を聞きながら俺は一通りの事を喋った。けれどもヒョンはごろごろとコーラを鳴らしながら唸った。

「……ううん。どうしてそんなことに悩むのか」
「ヒョンだったら話しかけてる?」
「話しかけたかったら、話しかけてる」
「ヤンキーとかに目つけられてても?」
「俺が話したかったら話す」

 















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