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おいしいプレゼント (JungKook)



 音もなく扉が開いた。ジョングクはベッドでノートパソコンをいじりながら、入ってきたユンギに目をやった。なんだか大層体調が悪そうな顔をしていて、ぱたり、と力無く扉が閉まった。イヤホンを片方外す。
「大丈夫ですか、熱あります?」
「……んん? あー……うん」
 焦点の定まらない視線。ユンギの目が空を仰いだ。
 ……全然大丈夫そうじゃないじゃない。そう思ったジョングクは二段ベッドの梯子に足をかけたユンギの手を引き、看病がしやすい自分のベッドのほうへ引き寄せた。
「ん……っ」
 気だるそうな顔でベッドへ沈んだユンギが、苦しげに声を漏らした。開いていたノートパソコンを閉じ、脇のほうへ置く。ユンギの額へ手を当てた。
「……、」
「熱、あるみたいですね」
 全く……、髪の毛乾かさないで寝たりするから風邪引いちゃうんだよ。息をつき、布団をかけた。
 目を閉じて、横になっているユンギはさながら子供か赤ん坊のようで、歳上の男であってもついかわいらしいと思ってしまった。
「ヒョン、氷枕持ってきますからね」
 微笑んで、軽く前髪を横へ撫でつける。返答は無かったが、きっと聞こえているだろうから、構わずに台所へと向かった。その途中、ダイニングのテーブルに置かれた食べかけのクッキーが目に止まった。ハートや星、クマの形をしたそれらはおそらく、側に置かれているかわいらしい包みからして、どうやらファンの子がくれたものらしかった。包みの近くのカードには"♥TOユンギ♥"と書かれていた。
 体調が悪いのにだめになったらいけないと思って食べたのだろうか。やはり、ヒョンはつくづく優しい人だ。氷を枕へ入れながら、自然とジョングクの口角が上がった。
「ヒョーン」
 部屋へ戻るとユンギは辛そうに眉を寄せて唸っていた。剥がれかけていた布団を掛け直し、その頭の下に氷枕を敷く。一緒に持ってきた水と薬を側に置き、ユンギを揺すった。
「ヒョン、薬。薬持ってきたから飲も」
 出会って以来こんなに弱っているユンギの姿はジョングクも見たことがなかった。だから余計に心配になって、名前を呼んだ。すると、ユンギがゆっくりと起き上がってくれて、わずかながらほっと息をついた。後で飲み物かなんかでも買ってこないとなあ。と、考えながら、ジョングクが起き上がったユンギにコップ、そして薬を差し出した。
 が、それらが受け取られることはなかった。
    唇に、熱い感触。
 両手が塞がっていたせいで、ジョングクがはっと目を見開いても、近づいてきたユンギを押し返すことはできなかった。
「、……はあ、」
 ユンギの息がかかる。頬に添えられた手からは彼の異常なまでの熱がじくじくと伝わってきた。
 心臓が高鳴る。状況は掴めなくても、身体は反応を示した。病人なのに、とはわかっていても膨れ出す気持ち。ぺろりと舐められたその舌を、逆らうことができずに絡め取った。
「んん……っ」
 熱い。ユンギの口内はやはり、熱く、それでいて唾液でぬとりと濡れていた。ざらざらした舌が触れ合うたびにユンギから吐息が溢れるものだから、だんだんと当初の目的さえ頭からは薄れていった。
 唾液が顎を伝い出したころ、しばらくして、ユンギが離れた。ぼうっとした熱っぽい瞳はひどくジョングクの情欲をそそった。ごくりと喉を鳴らし、心の中でごめん、と謝る。
 ジョングクは両手のものを置き、布団を捲りあげてベッドに膝を乗せた。ぎしり、とスプリングが軋んだ。
「ユンギヒョン……」
 どうしちゃったんだ、今日はやけに積極的になって……。
 しきりに肩を揺らし、目を潤ますユンギの頬を包み込んだ。ユンギの瞳がゆっくりとこちらへ向いた。妖美だった。
「……ジョングガ、」
「なに?」
「……身体が、熱いんだ」
「え?」
「熱くて、熱くて、……はあ、あ、ジョングク……っ」
 ジョングクはすぐに先ほどのクッキーを思い出した。   もしや。
 そんなことは信じたくはないが、けれど異常に高い火照りや乱れた息からして考えられるのはそれくらいしかなかった。
「お願いっ、……欲しい、……ちょうだいっ、」
 切なげに、それでいてひどく艶めくその瞳。ジョングクが拒むことは到底、無理だった。
 ユンギに肩を押されてベッドへ沈んだ。そのまま上へ覆いかぶさられ、キスを降らしていくユンギは、何を言うでもなく自ら服を脱ぎ始めた。
「ヒョ、ヒョン?」
 さすがのジョングクも、いつもとは違うあまりにも積極的なユンギに戸惑った。嬉しいことには変わりはないのだが、……というか夢にまで見ていた姿なのだが、如何せん普段の彼とはひどくかけ離れているものだからもしや幻覚ではないだろうか、とつい疑いたくなった。
「ジョングク、頼むよ……、はやく……っ」
 苦しげな声に、見ると、気付かないうちにユンギは生まれたての姿になっていた。目に付くのは、白い肌にぷくりと咲く赤い痕。紛れもなく自分がつけた証。
「お願い、……なあ、……お願い」
 ユンギが腰を揺らした。既に昂りそそり立っているユンギのものが、自身のものに擦り付けられる。寄せられた眉、汗ばんだ身体、そしてその淫靡な姿にどくりと下腹部の熱が上がる。
「……何やってんのヒョン」
「ん……あ、ごめ……っ、でも、……あっ、ん、きもち、」
「気持ちいいの?」
「あっ、あ、うん、……きもちいっ、けど」
「……けど?」
「……もっと……ほしい……っ、」
 ジョングクは思わず唇を舐めた。
 なにこれ、エロすぎだろ。と、そう思ったがしかし、「でもなあ」と口の端を吊り上げた。ユンギが困惑したように、なに、と言った。
「今日はあんまり乗り気じゃないからなあ」
 もちろん、そんなの真っ赤な嘘だった。ヤりたい。今すぐにでも押し倒して、舌を絡めて、めちゃくちゃに突き上げてやりたかった。けれど、いつにも増して性欲に従順なユンギに悪戯心をくすぐられて、どうしても意地悪をしたくなった。
 すぐさまユンギの顔が悲しげに歪んだ。
「は、あっ、うそ……だろ……、な、んで……ぇっ」
「そんなこと言われてもなあー」
「やだ、ぁっ、……た、頼むよ……っ、あつ、くて、ぁっ」
 駄々を捏ねるユンギはその間にも自身のものを擦り付けてきて、中心を刺激した。くらくらしそうなほど扇情的なその姿。かき乱したくなる衝動に駆られながらもジョングクは熱を抑えて言い放った。
「まあ俺の身体は好きに使って構いませんから、勝手にどうぞ」
 ユンギが息を飲んだ。ちょっと酷い言い方をしすぎたかな、と思ったが「……わかった」とユンギがつぶやいて、その手が衣服へ伸びてきた。
 そろり、とズボンを下ろされる。
「ジョングクの、おっきくなってんじゃん……」
 恍惚とした表情でユンギがそれを撫でた。ちらりとこちらを見たユンギに「そりゃあ触られればね」と言った。彼の唇が拗ねたように尖る。
「いいし別に……、すぐにエッチしたくなるよ、」
 ユンギがそう言って、パンツを下へずらした。恥ずかしながらも、既に自身のそれは腹についてしまいそうなほどにそそり立っていた。
 ユンギの手が這う。そして、彼はいくらかそれを扱いた後、ゆっくりと唇を舐めたかと思えば、次の瞬間何のためらいもなしに頬張った。
「!」
 じゅくじゅくと卑猥な音を立てながら、ユンギの頭が上下する。緩急をつけ、更に口内の舌は裏筋へと這っていた。喉の奥まで咥えられてきゅう、とそれを吸われれば、自然とその質量は増した。
 ユンギが眉を寄せえずく。しかし彼はそれでも口を離さなかった。
「ヒョン、いいよもう」
 肩を押す。けれどユンギはいやいやと首を振った。
「このままだと、イッちゃうから」
 ね、とジョングク。正直、一回イッたとしても別にその後に何回でも出来る自信はあった。が、ジョングクも限界だった。はやく中に入れたくてたまらない。ユンギの顎を掴んで無理矢理離れさせた。その口の端から、だらり、と涎が伝った。
「ジョングク……」
「なに、ユンギヒョン」
「ジョングガぁ……」
 ユンギが自分のものから溢れる先走りを指で掬いとって、その下の蕾へと手を伸ばした。一本、二本、指が増えていく。ユンギの肩が跳ね、指の感覚に集中しているのか目は強く閉じられていた。
「ジョングガぁ、あ……っ、あっ、んん、」
 甘い声で、しきりに自分の名前を呼ぶユンギ。
    どうしよう。
 ジョングクはあまりの淫猥さに困惑が止まらなかった。けれど、そうこうしてるうちに、ついに痺れを切らしたユンギは自身のそこへジョングクのものを当てがった。息もつけなかった。途端、にゅるりと容易く飲み込まれていく。
   あああっ……!」
 眉を寄せながらも、口角を上げて嬌声を出したユンギ。
「は、エロ過ぎ……、」
 その姿に思わず笑みがこぼれた。ユンギが腰を揺らす。
「ああっ、あっ、ん! あっ、きもちい! あっ!」
 まるでセックスを覚えたての学生のような勢い。揺れる腰へ手を添えながらジョングクは喘ぐユンギを見上げた。
「どこが気持ちいい?」
「ぁ、なか、中がぁ、あっ……いい……っ!」
「中がいいんだ、じゃあここは?」
「あああっ   !」
 ジョングクはユンギのものに手をかけた。びくりと肩が揺れた。ぐちぐちと先をいじり、下から突き上げてやれば、自分のものを咥えたままのユンギはより一層締め付けを強くした。
「だめっ、だ、めぇ、! 一緒に、したらあっ、ん!」
「だめなの?」
「あっ、あっ、だめ! んんっ、やぁっ、!」
 首を振るユンギがたまらなさそうに唇を噛む。ぞくぞくと背筋に何かが走った。
   へえ……。じゃあ、やめる」
 ジョングクは不敵な笑みを浮かべながら、その動きを止めた。途端に、ユンギが眉を曇らせた。双眸がわずかにじわりと潤み出す。けれどがくがくと震う脚に耐えきれなかったのか、ユンギはついにぺたりと座り込んでしまった。
 やばい、かわいすぎる。ジョングクはにやける口角を抑えるのに必死だった。かわいすぎるからこそ余計に、いじめたくなってしまう。たのむ、と眉を寄せたユンギに対して、ジョングクが大袈裟にため息をついた。
「やなんでしょ?」
「う……、」
 きょろきょろと彷徨うユンギの視線。そうされればされるほど何か、心に満ちるものがあった。
「俺、ユンギヒョンの嫌がることしたくないからさあー」
「……ぅ」
 かああっと赤く染まったユンギの頬に手を添える。するりと撫でればユンギの泳ぐ視線がやがてこちらへ動いて止まった。眉を上げて、ん?、と聞く。
「あ、ジョングク、……たのむ、」
「頼むって?」
「……もっと、……激しく、して……っ」
 本当はもっと卑猥な言葉でも言わせてしまおうかと思った。が、さすがに、と思い、よく出来ましたとすぐさまユンギにキスをした。
 意地悪をしていたものの、ジョングクも既にギリギリの状態だった。「ジョングガ……」とつぶやいたユンギへ微笑み、ぎゅっと身体を寄せ舌を絡ませていった。
 歯列をなぞり、舌を吸い、徐々にお互いの唾液が混ざり合っていく。口付けを交わしながら、ユンギの頭を押さえてゆっくりと後ろへ倒した。先ほどの、自分が持ってきた氷枕がそこにあり、冷たさがひやりと伝わった。
「ユンギヒョン……、」
 唇を離して、ベッドへ手をつく。覗き込んだユンギの額に張り付いている髪をいくらか分けて、そこへ口付けを落とした。ユンギが笑う。
「いくよ?」
 尋ねれば、ユンギが頷いた。その姿がかわいくて、もう一度、その孤を描いた唇にキスをした。そして、ユンギの膝裏へと手を添え、腰を進めていった。
「あっ、あっ、」
 押し入ってきた質量に反応したのか、びくびくとユンギの内壁が痙攣した。強く締め付けられ、息が漏れる。挿入を始めた。
「……かわいい」
「……あ、んん、! きもちい……ぁ、い、きもちいい、っ!」
「は、ユンギヒョン……っ」
 鼻先へキスをする。ユンギの膝を更に押し、腹に付きそうなほど折って段々と挿入の速度を上げて行った。
 その都度、ベッドが軋む。荒い息と動くたびに鳴る水音が耳を犯すたび息も上がった。片手を離し、ジョングクは更にユンギの胸をまさぐった。びくんと跳ねたユンギは自身のものへと手を伸ばして扱きあげた。中が急激に狭くなる。
「ヒョン、苦しい……はは、」
「……んん、く、ふか、……!」
「うん、俺も深くて……気持ちいい、」
 膨らむ快感、下腹部に熱い疼きが走った。同時に、中もしきりに収縮を繰り返し始めた。ユンギが悩ましげに首を振った。
「はあ、あっ、じょんぐがぁ……っ! イ、く、……イッ、ちゃう……!」
「いいよ……っ、ユンギヒョン……俺もイく……、」
 ジョングクはごり、と当たった内壁の、ある一部分をこすりあげた。瞬間、締まったそこに耐えながらもそこばかりを狙って腰を打ちつけた。
「……あぁっ、あっあっ、イク、っい、……ぁぁあ、っ!」
 甲高い嬌声。ユンギの首を仰け反って身体を浮かせた。その瞬間、自身の欲望も同時に弾けた。ぐ、と腰を当てがって、ユンギと隙間なく密着させた。
   ……はあ、……はっ」
「ん、……は、……じょんぐがぁ……」
 荒い息を吐きながら、ユンギの耳を舐め上げた。するとユンギからはうれしそうに吐息が漏れ出してきて、きゅう、と胸が詰まった。
 充足感に満ちる心。幸せ以外の何物でもないそれが、きっと彼へ伝わればいい、とジョングクはやさしくユンギの唇をついばんでいった。
 ちゅ。ちゅ。と、小気味良くキスを重ねる。お互いに笑みがこぼれた。絡められていたユンギの脚がベッドへ沈む。
「ヒョン、……よかった?」
「ん、……よかった」
 頬にユンギの唇が触れた。へへへ、と笑った彼はあまりにもけろりとしていて、先ほどの勢いはそこにはなかった。
 なんだ、もう切れちゃったのか。
 少々残念がりながらも、その愛らしい笑顔に頭を撫でればまたユンギが嬉しそうに目を細めた。
 ああくそ、かわいいなもう。
 襲いかかりたくなった気持ちを抑え、けれど、明日のスケジュールも考えて自身のものを引き抜いた。わずかに漏れ出た嬌声と、ユンギの蕾から溢れた自分の白濁。
 ジョングクはティッシュで彼や自分を拭き、綺麗にしながらも、やはり、若いからか、情欲は今だ完全に治まりきっていなかった。
 だめ。だめ。だめ。深い呼吸を繰り返した。じんわり忍び寄る欲望をジョングクは必死に殺していた。
 ぽつり、ユンギが言った。
「もう、しないの」
「え……?」
 横たわるユンギがこちらを見上げていた。
「ジョングガ、もう、しないのか」
 それは……どういう意味……。ジョングクは思わず耳を疑いたくなってぱしぱしと瞬きを繰り返した。そして恐る恐る、期待に湧きながら問うた。
「い、いいの? もう一回……」
 ユンギが声を出さずに頷いた。
    いつもはお願いしても明日仕事があったら一回しかしてくれないのに。
 にやにやと口角が上がった。うれしくて、うれしくて、けれど、それを見たユンギはすぐに顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「ジョングク。……はやく、」
「はいはぁい!♥」
 その後は、それから一回だけでなく二回、三回と行為を繰り返した。これも若さ故かな、と思っていたが、さすがに四回目となるとユンギはぐったりとしてしまって、もういいからと首を振られた。
 そのまま、ユンギはシャワーを浴びるのも忘れて眠ってしまった。ジョングクがそれを確認するや否や部屋を出た。そうして、密やかにテーブルの上にあったクッキーを懐へと忍ばせた。
 腐らぬうちに、使おう。そう企みながら。




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