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今日から (BaekHyun)




 うめき声をあげ、どさり、とチャニョルがうつ伏せのままソファに倒れこんだ。黒い革張りの大きなソファに、力なく大きな体が横たわっている。
 そんな姿を通りがけに見たベッキョンはダンボールを運ぶ手を少し止めて、にこり、と笑みを浮かべた。
    今日で二年半。
 チャニョルとベッキョンは恋人同士だった。共に同じ性別で当初はお互い困惑もあったが、二人はやがてそれも気にならなくなるほど純粋に愛を育みつづけた。
 そんな二人が同棲しようと決めたのはほんの、ついこの間のことだった。
 ほんと、急に言うんだもんなあ。
 ベッキョンは洋服をクローゼットにしまいながら、ぼんやりとその時のことを思い出していた。
 カフェ。ベッキョンがキャラメルマキアートを飲みながら、なんだか今日はやけに甘い気がするなあ、と思っていた時だった。

『ベク、俺と一緒に住もう』

 顔を上げれば、いつになく真剣なチャニョル。そんな恋人にベッキョンは少々驚きながらもすぐに、ふたつ返事でそれを受け入れた。
 そして、あれよあれよという間にとうとう引越し。
 ぱたん、とベッキョンがクローゼットを閉じた。
 あんな急な話だったってのに即答できちゃったなんて、俺もなんだかんだいってあいつのこと相当好きみたい。
 自然と、顔がほころんだ。

「ん〜……」

 ベッキョンは大きく伸びをした。ぐうっと腕を伸ばせば、凝り固まった筋肉がほぐれていった。

「さて」

 頷いたベッキョンが小走りでリビングへと戻った。やっと全ての作業が終わったのだ。ベッキョンは早くチャニョルと会いたかった。
 嬉々としてベッキョンが勢いをつけ、伏していたチャニョルの上に、どさっと覆いかぶさった。

「おつかれさまっ」
「う゛っ   !」

 飛び込んできたベッキョンに、チャニョルからは苦しげな呻き声が捻り出た。しかし、チャニョルはそれがベッキョンであることがわかるとすぐに身体を揺らして笑い始めた。

「……なに、なぁーにしてんの」
「んー?」

 上に乗っかったベッキョンは間延びした返事をしながら、チャニョルに胸元へ腕を回して、きゅっと抱きついた。
 チャニョルがまた大きく身体を揺らして笑った。その振動がベッキョンにも伝わって、愉快な気持ちになったからか頬は思わず緩んでいった。
 久しぶりに(といっても数時間ほどなのだが)チャニョルに触れられたことが嬉しくて、ベッキョンはどきどきと胸を高鳴らせていた。
 脚や腹、胸から伝わるチャニョルのぬくもり。背中へ頬を合わせてみると、じんわりその温かみを感じた。

「ベーク、ベクったら。あはは」

 耳をつけると、体内で響くようにして聞こえてきたチャニョルの声がおもしろいと思った。ベッキョンはくすくすと笑った。
 すう、と息を吸えばほんのり甘い彼の香り。
 幸福感で胸がいっぱいになった。

「なんかすごく……幸せ」

 幾らか数回、瞬きをしながら呟く。
 不慣れな作業で少々疲れた身体も、こうしてくっついているだけで癒されていく。触れ合った場所からじんわりと滲んでくる体温が、何故だかすごく愛おしい。

「……ふふふ」

 つうっ、と指で背中をなぞってみる。チャニョルが「やめてよ〜」と足をばたばたさせた。
 ベッキョンは何だか心がぽかぽかとしてきて、たまらず、額をチャニョルの背中に擦りつけた。すると、ついにくすぐったくなったのかチャニョルが身体をよじらせてベッキョンの頬を掴んだ。

「こぉ〜ら」
「あはは」

 チャニョルはベッキョンを腹に乗せたまま、その頬をふよふよと触る。ベッキョンは彼のこの行為が好きだった。大きな手のひらで頬を、顔を包まれて、そのくりくりとした目でじいっと見つめられると、しょうもなくどきどきしてしまうのだ。

「引っ越しちゃったな、俺たち」

 ベッキョンがチャニョルの腹に手をついて彼を見下ろしながら笑いかけた。チャニョルは今まで頬を触っていた手をベッキョンの膝の辺りに置いて、うん、と頷いた。チャニョルの手はそのまま膝からふともも、ふとももから膝、と動かすので少しくすぐったい。

「それにしても、どうして急に同棲だなんて」
「んー……どうして……」
「驚いたよ、俺」
「んはは、だろうねえ」

 チャニョルが目を細めて笑った。こっちが聞いてるのに、まるで他人事みたいな言いぐさをするチャニョルに、ベッキョンは口を少し尖らせてその顎を挟んだ。

「なんでって聞いてるじゃん」

 いくら好きだからって、おいそれと一緒に住むのは勧められたものではないが、それでもほぼ鵜呑みにも近い形で受け入れた自分も相当だと思う。いったい突然提案してきたチャニョルがどういう心境で言ったのかベッキョンは気になっていた。
 けれども、いくらベッキョンが目を合わせようともチャニョルはその目をちろりちろりと泳がせた。

「う〜、やだあ〜……恥ずかしいもん〜……」

 顔を赤くしながらチャニョルが言った。しかしそれは余計にベッキョンの"知りたい"という欲をくすぐった。

「なんでだよー、バカー。教えろよ、バカー」

 ベッキョンがぱしぱし、とチャニョルの腹を叩いた。
 どうせ、大した理由や動機ではないとは予想できていても気になるものは気になる。

「なあに。なんで言えないの」

 腰を浮かせて、ずいっと腹の辺りへ座った。チャニョルが圧迫感にベッキョンの顔を見上げた。
 チャニョルの肩に触れる。ベッキョンは少しばかりむうっと頬を膨らませながらチャニョルの顔を覗いた。

「ね〜え〜」
「……。もお〜……降参」

 ちゅ。
 チャニョルが唇を重ねた。
 突然のキスにベッキョンは固まり、はた、と彼を見下ろした。
 すうっ、とチャニョルの手が頬を撫でる。背筋に何が走るのを感じていると、再び柔らかい唇と触れた。
    ひとつ。   ふたつ。確かめるように重ねられた唇に、ぼおっと頬が熱くなる。
 チャニョルが満面の笑みで笑った。すると、次の瞬間力いっぱいぎゅうっと抱き締められた。肩へ触れていた手が崩れて、チャニョルの首元へうずまる。

「……チャ、チャニョラ?」
「……」

 チャニョルが何も言わず、抱き寄せる腕の力を更に強めた。

「ちょ……っ」

 苦しさに胸が詰まったが、何故だか心臓はどきどきと早鐘を打っている。息をすると鼻腔をくすぐったのはやはり、他でもなくチャニョルの匂いで。
 ベッキョンは何か言うことをやめ、目を閉じた。

   ベク」
「……ん」
「ベク……」
「……」

 吐息混じりの低い声。直に耳元で囁かれたかのような錯覚がぞくり、と背を震わせた。ベッキョンは答えるかのようにチャニョルへ腕を回した。
 すると、チャニョルがゆっくりとベッキョンの髪をすき始めながら言った。

「俺、幸せ」
「…………、」
「ベクと、こうして一緒にいるだけで安心するし、癒されるし……ドキドキもするし」
「うん、」
「本当どんどん好きになっていって……毎日不安でたまらなかったり、嫉妬したり。自分自身整理つかない時もあったりさ」
「うん……ふふ、チャニョルはわかりやすいからね」

 うるさい、とチャニョルが軽く頭を叩いた。ベッキョンはくすくすと笑いが込み上げてきた。

「でさ、




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