ずれてゆく (BaekHyun)
よくよく振り返ってみればおかしなところはいくらでもあった。
例えば、すぐに身体のどこかへ触れようとしてくる手だとか、妙に近い距離だとか、気がつけばこちらを見ていて、けれども逆にこっちが見返してやるとふいっと逸らしてしまう瞳だとか
、本当にいろいろ、たくさん、エトセトラ。
きっと出会った時からなのだと思った。彼との間にはとんでもない”差”というものがあったのだ。
そうでなければ。そうでなければ。どうして今彼をこんなにも殴りつけている自分がいるのだろうか。
彼は言う。ただひたすらに、彼なりの謝罪の言葉をほろほろと、ぶたれるたびに口から零す。ごめんなさい。男なのに、好きになってごめんなさい。勝手にいろんなことを想像して、ごめんなさい。と、それはそれは、さも本当に申し訳ないと思っているかのようにうそぶくのである。
うそは嫌いだ。
だからそうやってうそをつかれるたびに、むかむかと荒くれ立つ心の波に突き動かされるようにしてこぶしが飛び出ていく。
彼がうそをつく。俺が殴る。うそをつく。殴る。これではまるで餅つきのようだった。彼がうそをつくからこぶしが出るのか、こぶしが出るから彼がうそをつくのか、どっちかよくわからなかった。そのうち、どうして俺が彼を殴っているのかもわからなくって、しばらくすると疑問に思えて仕方なくなった。
友人だと思っていた同性が、自分に恋心を抱いていると知ってしまったからなのだろうか。
自分の名前を呼びながら、果てる姿を見てしまったからなのだろうか。
今まで築かれていた信頼や友好が崩れる音を聞いてしまったからだろうか。
経験したことがある人にはわかるかもしれない。
いや、もしかしたら余計わからないかもしれない。人はそれぞれ十人十色という言葉があるように、その者に対して感謝を述べる人がいたり、気味悪がって接触を極力控えるようにする人がいたり、もしくは今までどおり振舞う人やあまつさえ喜ぶ人もいるかもしれない。
けれども、自分はそのどの人とも違う反応が出た。背信、嫌悪、空虚、疑念、そんなようなものが混じって、ぐちゃぐちゃとした感情が生まれてしまったのだった。