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変わりゆく (LuHan)




 額からじわりと汗が伝った。青空で光を放つ太陽が、じりじり俺を焦がす。眉をしかめて、ちらりと右隣の男を見た。
「……セフナ、暑い」
「ああ……んんー、そうですね。暑いですね」
 口では同意を示したものの、隣の男、セフンは涼しい顔で答えた。その様子はどこも暑がっているようには見えず、また、真っ直ぐに視線を据えたまま歩いているので、彼は機械でできているのではないかと思った。
 感情なんてお構いなしで、どことなく、すかしたような態度。
 しなれ気味に空を見上げた。透き通るようなスカイブルーは見てる分にはさわやかで清々しい。けれども今はまったくもって憎らしい。短いため息がまたひとつこぼれた。
 久しぶりに買い物に来たのはいいのだけれども、人は多いし、荷物は重いし、なにしろ暑くて、暑くて……、暑い。
「ああもうどうして夏は暑いの……、」
   それは夏だからですよ」
「そんなの、答えとして認めない」
「ええ。じゃあ、ここが北半球だから」
「はあ……真面目か」
 ぴくりと動いたセフンの眉毛。俺は見てみぬ振りをした。なんだか暑くなってきて、手で自身を扇いだ。しばらくして、後ろの方から声がした。
「ヒョンってばよくおんなじ事言いますよね」
 振り返ると、彼が少しだけ唇の端を上げていた。いつ後ろへいったのだろうか。立ち止まる。俺は全然気がついていなかった。
「ほんとによく言う」
 彼が繰り返して言った。まるで、知ったような口ぶりだった。俺はまた前を向いて歩き始めた。
「覚えてませんか」
 彼の足音はきちんと俺を追ってくる。
「去年の夏はもちろん、この前の冬だって言ってました。ああセフナー、冬はなんで寒いのー、って」
 俺は、そんな愚痴っぽい男じゃない。   なんて、胸を張りたかったけれども、自身の記憶の片隅には同じような文句言った記憶がちゃんとあった。
 男は、きっとすかした笑顔を浮かべているであろう。歩みは止めずに、ずれかけていたリュックを背負いなおした。
「はやく冬来ねえかな」
   それも言ってました」
 セフンはいつの間にかまた隣にいた。俺を見下ろすその視線にはまだ慣れない。前を見たまま歩く彼は、ついこの間まで自分よりも小さかったはずなのに。
 急に、びた、とそこから足が動かなくなった。
「セフナ」
 そして急に、名前を呼びたくなった。
「なんですか」
 セフンは振り返らなかった。
 生暖かい風が吹き抜けた。わ、と撫ぜられた頬は熱い。俺はもう一度彼の名前を呼んだ。
「セフナ」
 前を歩くセフンがゆっくり、こちらを振り返った。言葉はなく、眉を動かすだけ。 
「……いいや。呼んだだけ」
 俺はセフンのもとに駆け寄った。 




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