その日が来なくても (LuHan)
セフンは僕のことが好きだ。僕の姿を見つければ、すぐに近寄ってきて抱きしめてきたり、手を繋ごうとしてくる。お互いが近くにいない時はメールや電話を頻繁にしてくれる。まあ、よくもマメな奴だなあと思う。
会話の途中などでヒョン大好き、だなんて少し照れながら言うセフンだが、そんな彼を前に僕はただ、ありがとう、としか言えない。
だって、セフンはあくまでもヒョンとして、友達として、僕のことが好きだと言ってくれているのだから。
僕が彼に抱いている"好き"とは違うんだから。
「はあ……」
受け入れたくない現実を考えて重くなった体でベットに倒れこんだ。以前よりも大きくなったベッドが、へこんだ僕をなだめるように優しく包み込んでくれた。枕に顔をうずめる。
あの人を想うだけで……、なんていう世の乙女たちの話しをせせら笑っていた頃が懐かしい。そんな風になるか?と思っていたけれど、いまでは彼女たちの気持ちが痛いほどわかるようになった。
「……〜〜!」
胸に溢れる好きという気持ちに、どうしようもないくらい叫びたくなった。セフンと会うたび、ついぽろっと想いを伝えてしまいそうになった。しかし、伝えたところで叶うわけがない、という確信がよぎり、我に返る。
ルハニヒョン、ルハニヒョン、ルハニヒョン、と僕を呼ぶ、あのほにゃほにゃした緩い顔が恋しい。
いつだったか、ファンが作った僕とセフンの合成写真を見てしまったときから、妙に意識するようになってしまったんだ。
キムジョンデの馬鹿野郎。
本当に馬鹿、なんで見せたんだ、もう。
ポケットに入っていた携帯を開いた。秘密のフォルダーのパスワードを解除し、現れた画像……そのどれもが同一人物だった。そう、もちろんセフン。
ここまでくるともう僕は自分自身、ヤバイ奴だと思う。変態だと言われても過言ではないかもしれない。
フォルダをスクロールすると、様々な表情をした彼が流れていく。きりっとした顔、眠そうな顔、憂いを帯びた顔、白目をむいた顔、ダンス途中の事故してる顔……。
これはいつ頃だっけなあ、と画像を見ていくうちに下がっていた気分は急上昇し、僕はいつの間にか笑顔になっていた。
それは本当のほうがいいに決まっているが、携帯に収められた姿を眺めていたら僕はこうして元気になれる。
好きだと気づいたときからもこの気持ちは無くなるどころか、むしろどんどん大きくなっていった。
恋人にはなれなくても、僕はそれでいい。セフンの親しい友人であって、僕といるのが楽しいと思ってくれていればいいかな、と思う。
携帯の中の動かない姿を深く見つめた。
そのとき、携帯が震えた。電話だーーセブンから……。
名前を見て大袈裟にどくりと脈打った心臓を押さえつつ、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「あ、もしもし、ヒョン? ご飯はもう食べましたか?」
早く鼓動する心臓のせいで体温が上がった。舌っ足らずというか、滑舌が少し悪いいつもの声に嬉しさを覚える。
「んー、まただだよ、さっき帰ってきたばっかりで。僕とミンソクしかいないから、ミンソギがいま作ってくれてる」
他愛ない話。
沈んだ気持ちなんてもうどこかに行っていた。
やっぱり、どんなに考えても愛おしくてしょうがなかった。
会いたい、と思った。会って、ただ笑顔が見たいと思った。
「セフナー」
「なんですかー」
「好きだよー」
「え! ヒョン! ヒョン! あ、ぼ、ぼ、僕もです、ヒョン! へへ……」
「ふふふ」
真意が違っていても嬉しくて、幸せで、笑った。すると、扉の向こうでミンソクが僕を呼んでいる声が聞こえた。ご飯ができたようだ。はーい、と返事をして、セフンにまたね、と言って切ろうとしたが、セフンが口早に話しをしてきた。
「あ! 待ってヒョン! 今度、韓国に来るじゃないですか」
「え? うん、来週だっけ」
「あの、そのとき、ちょっとお時間ありますか……?」
「えっ……?」
「
あっ、あっ! ちょっと行きたいお店があって! あの、一緒に〜……って」
「あははは! いいに決まってんじゃんー!」
そんなにかしこまって言わなくてもいいのに! 彼なりの心遣いというか、性格というか……、素直な子なんだなあとしみじみ思った。
「うん、じゃあ来週ね、セフナ」
電話を切ると、部屋に沈黙が訪れた。
来週かあ……。携帯のカレンダーを開いて、メモを打った。"セフンと買い物"。本当は"♥デート♥"とかにしたかったけど、さすがに……、と思い、やめた。
なかなか来ない僕を、ミンソクが再び催促した。いま行く!と大きく返事をした後、手元の携帯をベットに投げて、ミンソクの元に急いだ。
僕らの異なる"好き"が、いつか、同じになったらいいのに。