息ができない (JongIn)
まだお互いに一般人だった頃、遊びに行った部屋とはもう違っていた。周りにはこの建物より高いビルは無く、見晴らしが良くて広い部屋だった。 夜になれば背丈の何倍もある大きな窓から綺麗な月光が差し込んで来て、明かりが無くとも十分に明るい。
白い月明かりに溢れた大きな部屋を見たとき、まるでテミンの人生における成功を具現化したようだと思った。
しかし、その幻想的な光に包まれながらも一人俺を迎え入れてくれた彼の姿は、どこか、痛々しくもさえ感じた。忙しさからか少しざらつく顔に触れたとき、かつての彼ではないようで遠くに思えた。
テミンが、俺のなかにあるんだ。と、そう考えるだけで俺は情けないほどに感じてしまった。甘い痺れが下肢にまとわりつく。ぐらぐらと揺らぐ意識に目を閉じた。
「ジョンイナ……」
熱のこもった息が不規則に耳にかかり、俺の聴覚を刺激する。でもその息が何故だか俺には虚しく感じてしまって、どこか胸が痛んだ。
テミンと繋がっている身体や強く握られた両手が、もう夢ではないんだと言っているみたいだ。
ひさしぶりに会った友は、いつの間にか随分と大人になってしまったようだった。歳は同じでも、芸能人としては先輩である友人の活躍を聞かない日はない。そんな姿を見て俺はただテミンはすごいな、と思うばかりだ。
「ジョンイン、会いたかった、」
「ん、」
会えなかった日々を埋めるように互いの唇を貪るように奪い合った。舌と舌が絡まる感覚に下腹がじんわりと刺激される。テミンはそのまま挿入を始めた。
「んん、ふ、……は、あ、……ふっ、ゥ」
かわいい顔のくせに、セックスをしだすとこんなに荒い、こんなに余裕のない、雄丸出しのテミンが現れる。
ファンの前にも、友達の前にも、グループのメンバーの前にも出さないこの一面。世界で、この俺だけがこんなテミンを知っているのかと思うと、たまらない。
ねっとりと首に舌が這う。首元から耳へと舐め上げられて、耳たぶを甘噛みされた。
「あ、っ……はぁ、」
額に汗が伝った。次々に襲うエクスタシーの波に俺の目は潤んでいく。
「ん、カイ……? きもちい?」
ぎゅっと手に力を込められ、瞳を覗き込まれた。俺は首を縦に振った。
テミンは満足げに微笑み、目尻のこぼれそうになっていた涙にくちづけをしてくれた。
愛くるしいいつもの顔とはまた違う、妖艶な表情だった。恍惚とした気持ちでそれに見惚れてしまった。
色っぽいテミンを見て、ある思いが浮かぶ。
「あのさ、……っ、……」
「ん、……なにー、?」
目尻から頬、頬から首、鎖骨、とだんだんにキスが下がっていく。
胸の突起へキスされたとき、身体がびくりとはねた。
「今度、は、……俺が、お前んのなかに……いれてえんだけ、ど……っ」
「はぁ?、…いやだ」
心底不満だと言うように、視線を逸らされた。
普通に考えて俺が入れるほうだと思うのだが、テミンは聞く耳を持ってくれない。
「んっ、一回くらい、……してみたいんだけどっ、」
俺がそう言ったとき、ちり、と胸元に痛みが走った。テミンが痕をつけたのだ。
「! おい馬鹿、なにやってんだよ……っ、も、俺は……俺たち、は……ぁ、!」
「うるさい」
芸能人なんだから。
そう言いかけた瞬間、テミンは言葉を遮った。
俺のものに手をかけて、さらに腰を強く揺さぶったのだ。
「ーーー! ーーーあっ、! ば、かぁ、テミナッ、ぁあっ、んん! ばかッ、やろ、……」
女のようにはしたなく声が出る。口で手を抑えようとするとテミンにそれを邪魔された。
知り尽くされた性感帯が巧みに刺激される。ねっとりと吐息交じりに耳を舐め上げられて、たまらず声を漏らした。
独特の水音と身体のぶつかりあう音が部屋に響く。きしむベットは行為の激しさを示し、二人の荒い息はそれらをより一層卑猥にした。
「ふ、……あ、ちょ、激しすぎ……くそば、か……だめ……ッ、ってば、おい、……やッ、あぁあぁっく、」
身を任せれば簡単にこの気持ちは最高潮にいってしまう。独特の甘い疼きがすぐに登り詰めて、すぐにでも果ててしまいそうだった。
四肢の先々に力が入る。
「くそ、ばか、……て、み……、ーーー!」
すると突然、勢いが止まった。
弱い、敏感なところをわざと外すようにゆっくりと突かれ、手の動きも俺のいいところに差し掛かった途端に力を抜かれた。
絶頂を逃し、心臓がどくどくとはやたてる。
強く閉じていた目を見開いた。
無表情に近いテミンの顔が目に入った。その虚ろな瞳には俺だけが映っていた。
「ねえ、……カイ、もっと気持ち良くなりたいでしょ……ねえ、カイ、ねえ、おねだりしてみなよ……、ほら」
天使はもはや極悪人のような笑みを浮かべていた。
ぐち、と精液が溢れる、俺のものをゆっくりと上下される。
いいところを上手に避けて、どうしても中途半端な快感ばかりしか得られない。
先ほどの興奮ですっかりおかしくなってしまった俺の脳では、もう何も考えられなくなっていた。
イキたい、イキたい、イキたい……ーーー!
だめだ、だめだ、と頭の片隅では言っているものの、本心は別の欲求に支配されていた。
自然と身体がねじれる。芯を揺するような衝動を焦らされて、俺はよがった。
「はっ、いやらし……」
テミンが舌舐めずりをした。その仕草にすら俺は熱が上がった。
テミンの一挙一動、表情でさえ、今ならそのすべてに反応して、感じてしまえる気がする。
脈打つ中心部からは、だらだらと先走りがほとばしった。
「あは、ねえ、いっぱい出てるよ……、カイ、どうされたい……」
「ーーーっ、」
テミンはさらに追い打ちをかけるように俺のものをいじった。びくりと腰が跳ねる。ぎしりぎしりと歪むベットがうるさいと思った。
朦朧とかすむ意識の中で必死に理性が戦う。本能は絶頂を望むのに対し、強い羞恥心がそれを引き止める。せめぎ合い、反する気持ちはもっと俺を狂わせた。
熱くてたまらない身体はもう歓喜の瞬間だけを待っていた。息がどんどん荒くなる。どれだけ息を吸っても足りなくて、くらくらする。
「カーイ、」
テミンが笑う。艶めく唇が弧を描いた。
俺は、答えを待つぎらぎらとする瞳をしっかりと睨みつけて、笑った。
「ーーー……発情期の、ガキ、っ」
テミンが眉を寄せた。
その直後、壊れそうなほど腰を打ちつけられた。遠慮なく弱点を攻められ、俺のものをすく手は容赦無くイイところを狙った。ーーーそして、空いていた片方の手までもが、俺の胸元をまさぐり、さらなる快感を同時に加えた。
今までにないくらいに攻め立てられ増幅する快感に、一瞬視界が飛んだ。
涙は目尻から伝い始め、熱く火照った身体は絶頂をただ望んでいた。
「ああっ! あ、あ! ああぁっ、くそばか……ッ、……あっ、ああッ! ばか、……やめ……ろ……ッ!」
強引にいじられる胸は痛いはずなのに、それすらもおかしいくらいに気持ちいい。
「あ、すっげ……、カイ、締まる……はははっ……、」
耳元にかかるテミンの熱い、荒い息。一層早まる動きに俺は、嬌声を出すまいと唇を閉ざした。
強すぎる悦楽にうまく快感に耐えられず、ただシーツにしがみつくのに必死だった。
「……ッ、! ……ン、……んんんッ!、ン、あ、……は、あ! ん、んっ、んんっ!」
一番気持ちのいい場所をテミンは何度も、何度もついてくる。
行き場のない大きな快感がぞわりとやってきて刺激する。俺はたまらず、頭を振り、目を荒くつぶった。
「は、あ、カイ……」
テミンはなだめるように唇をついばんできた。しかし、エクスタシーに悶え、跳ね揺れる俺はうまくそれを捉えられない。
中で狂乱的に暴れるテミンは、雄々しく速度を増していく。
「ん……かわいい、かわいい、俺の……カイ……っ、」
テミンは閉じたままの俺のまぶたに、リップ音をたててキスをした。
そのやさしいキスに何故か胸が痛くなった。
「んッ、あッ!あ、んんっ、ばか、テミンッ、……あっ、あほテミン……ッ!」
「んっ、……ん?、……なあに、聞こえないよ、」
「ーーーーく、そ、んんんッ!」
ぐり、とカリを扱かれた。つい反動で後ろを締めてしまう。
「やらしい身体、ああもうヘンタイだね、カイは……、」
その瞬間、両脚が持ち上げられ、テミンが奥へと押し入ってきた。
どちらからともなく舌を絡め、深くくちづけをする。
シーツに頼っていた手をテミンの背中にまわし、きつく、きつく抱いた。テミンもそれに応えるようにして俺を強く抱いてくれた。
ほどなくして唇を離すと、テミンは今にも泣き出しそうな顔で「見て。見て、見てて……僕を、俺を見ててよ、」と壊れたように繰り返した。そしてぐったりとうなだれるように、俺の肩に倒れた。
俺はそれに何も言わず、ただ黙ってあやすようにテミンの頭を撫でた。
「見てる……、お前だけを見てる。ばかテミナ」
だけどそんなテミンに俺は安心する。それは俺のことを愛してくれている証拠だ、と感じるのだ。
火照って汗ばむ身体と身体が密着し合ってるせいで熱が生まれるが、俺にはそれが心地よかった。俺がテミンになって、テミンが俺になって、そんな幻想すら信じられそうだった。
俺は小さく微笑んで、目をつぶった。
最近会う機会も、こうして繋がれる機会も減っていた。
活動したてのEXOでも日々スケジュール追われるような生活を送っているのだから、SHINeeなんて想像を絶する毎日なんだろう。大人気のグループは世界中を飛び回って、俺がいくら会いたくてもそれは容易には叶わないのだ。
早くデビューして、テレビで見かけるあの、テミンの姿に追いつけるようにがんばったのに、これじゃ……。
つい出そうになったため息を押し殺した。
「……、カイ……、カイ……、」
すすり泣くかのような声に起きる。
「……ん、どした」
明かりのない天井を見つめる。いま何時なんだろう。
遠くで電車の走る音がした。
「カイ、僕のこと好き?」
肩がじんわりとあたたかくなった。鼻をすする音が虚しく反響する。
ああ、テミンが泣いている。
「なに言ってんの」
「俺はさ、必要? SHINeeのイ・テミンじゃなくて、ただのイ・テミン……」
どこかで犬が吠えた。本当に夜は音が遠くまで届く。
毎晩こうしてさみしさをテミンは抱えていたのだろうか。悩んで、わからなくなって、泣いていたのだろうか。
「テミン、」
「やだ」
俺を抱きしめる手が強くなった。
「僕、なんか、もう、わかんな……い、っ」
「……テミン」
「なんで泣いてんの、かな……っ、夢が叶って、……歌って、踊って、毎日っ、……好きなことできてるのにっ……」
「……」
「足りなくて、……しあわせなのに、足りなくて、っ」
俺は起き上がって、テミンを押し倒した。後腔からテミンのものが抜ける。
四つん這いになって覆いかぶさり、横を向いていたテミンの顔をこちらに向かせる。
窓からの月明かりに光る濡れた瞳は、かなしくも美しかった。
「……カイ、俺、っ」
テミンが歯を食いしばった。
しかし、瞳からは次々と涙がこぼれ落ちていき、俺をどうしようもなくやるせない、心苦しい気持ちにさせた。
流れた涙を拭ってやると、俺はゆっくりくちづけをした。
「愛してるから」
テミンの頬に手を当てた。
視界が曇る。
「愛してるから、」
にじむ世界にまばたきもせず、わずかに見える姿だけをただ見つめた。
「お前をおもうと、ーーー苦しくなって、」
堪えきれなくなった涙が落ちて、テミンの頬を濡らした。
大きく息を吸う。
「……むかつく、っ」
吸いすぎた空気は肺に溜まり、苦しくなった。
やり場のない感情。俺は何て伝えたらいいのかわからない。
「ごめん、テミナ、」
永遠には続かないこの関係が怖くて仕方が無い。
終わりが来るのなら、俺はそんなもの、はじめたくないのに。
「テミナ、ごめん、」
お前が好きだ。