あたしと汐田はよく一緒にいるようになった。
汐田はふわふわしていて、泡みたいな存在だった。
でも、それがあたしにとって一緒にいて安心する存在だった。
ふとした拍子にぱちんと消えてしまいそうな、そんな存在だった。
それが何故安心するのか、あたしにはよく解らなかった。

「慧、あんたなんで転入生とつるんでるの?」
「…あたしが誰と仲良くしようとあんたに関係ないでしょ?」
「だけどさ、あの子、あんまり良い噂無いよ」
「…噂なんて関係ないでしょ」

あたしは無性にいらいらした。
汐田のことを悪く言われたからなのかとも思ったけど、
いや、あたしは自分のことを悪く言われて腹が立っただけなのだ、と考えることにした。
実際、自分のことを悪く言われたわけではないような気がした。

帰りのホームルームが終わって、あたしは帰る準備をしていた。

「慧ちゃん、一緒に帰ろ」
「うん、今行く」

あたしはスクールバックを背負うと、汐田の元へ向かった。
靴箱に来てから、思い出した。
(やば、お弁当箱、教室に置きっぱなしだ)
あたしは仕方なく、汐田に、弁当箱を取ってくる、と伝えて教室へ向かった。

夕日のオレンジ色の光が差し込んでくる校舎。
眩しいような、眩しくないような、そんな光だった。

がらりとドアを開けて教室に入ると、夕日を浴びてさらに色素の薄くなった頭が見えた。
蒼井翔とか言う名前の人だ。
暴力事件を起こして、停学になってから暫く見なかった人間。
停学期間を過ぎてからも学校に来なかったから、久しぶりに見た。

「あれ、伊藤、何しに来たの?」
「…弁当箱を取りに来たんだけど」

「あ、そ。どーぞ」

あたしは机の横に掛かったままの弁当箱の袋を取ると、教室から出て行こうとした。

「ねえ、伊藤」
「…何?あたし急いでるから、早くして」
「俺に学校に来て欲しい?」

蒼井はにやりと不敵な笑みを零した。
あたしは馬鹿馬鹿しくて、思わず溜息をついた。

「あんたが来たいって思うなら、来ればいいんじゃない」
「そんなこと聞いてない。俺に来て欲しい?」
「なんであたしにそんなこと、聞くのよ」

「俺はお前の後ろの席の人間だからです」

忘れてた。
そういえば、蒼井はあたしの後ろの席に元々座っていた人間だった。
暫く見ていなかったから、すっかり忘れてしまっていた。
担任も、きっと忘れてしまっていたのだろうな、と思った。

「…あ」
「…でも、お前の後ろ、誰か座ってんだな。転入生?」
「…そう。あんた、席どうすんの?」

「さあ。俺が聞きたいくらいですよ」

蒼井は苦笑を零した。
それから、ああ、急いでるんだったな、悪ぃな、またな。と言っていなくなった。
(何なんだ、あの人は。)
あたしは、待たせている汐田の事を思い出し、走って靴箱まで行った。

「ごめん、要」
「別にいいよ?」

にこっと笑う汐田。やっぱりこの子はかわいい。
汐田は人前ではなかなか笑わないのだが、あたしの前だとよく笑う。
笑った方が可愛いのに。
あたしは汐田の笑顔を見ながら、よくそう思った。








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