「気をつけてな。まあ、お前達ならその心配も無用か」

「大丈夫だよ由利ちゃん!なんてったって!串丸さんと!一緒の!任務ッ!!」

「……相も変わらずだな、串丸」

「………………」


まるで恋人のように、六は長刀の七人衆の腕に抱きつく。抱きつかれた本人はというと、少し困ったように、しかし優しい手つきで六の頭をぽんぽんと軽く叩く。久しぶりに見た懐かしい光景に、雷刀の七人衆も思わず笑みをこぼした。

そんな六と雷刀・長刀の七人衆との会話を水晶を通して視ていたやぐらは思わず嘆息した。もちろん先刻と打って変わった六の態度に対してである。


(いや……あいつの機嫌が治っただけでも良しとするか……)


眉間を揉みほぐしながら、再び深く息を吐くやぐら。いつだったか、六に"年寄り臭い行動"と言われたのを思い出し、手にした湯のみに亀裂が走った。後日また鉤棒で殴りつけられる六がいるのだろうか。なんとも理不尽ではあるが。


(このまま浮かれすぎているのも不安だが……まあ、その程度で任務を失敗するようなやつではないか)


幼い頃から忍刀七人衆と過ごし、鍛えられ、何より彼らの後ろ姿を六は無駄に見ていたわけではない。
六は自分の好きなものに対しては非常に素直である。故に、敬愛してやまない串丸の言うことであれば、たとえどんな汚い任務であろうと遂行するだろう。否、忍とはそういうものだ。


「じゃあ、行ってきまーす!」

「あぁ」


やけにハツラツとした六の声に、視線を外していた水晶に目を凝らす。赤い橋の上で千切れんばかりに手を振る六に、雷刀の七人衆が僅かに微笑んだ。
先程よりも霧が濃くなる。それが合図であるように二人の姿は一瞬で消えた。




***



里を出発した頃には高く登っていた太陽も、今では強い橙色を帯びた光を放っている。水の国にしては珍しく、先程まで深く漂っていた霧は晴れ、今は明瞭に辺りを見渡すことができる。まさに、任務遂行にはうってつけの環境だった。
目的地域に到着した串丸と六は、二手に分かれて周囲を探索することにしたらしい。……妙に名残惜しそうにしていた六にはあえて突っ込まずに。

串丸と分かれた六は目的地域の南側を探索していた。……とはいうものの、先程から人間どころか動物の気配すらしない。そのことに六は怒りを感じていた。


「何なのもう!さっさと犯罪者を引っ捕らえて串丸さんに褒めてもらおうと思ったのに……」


嗚呼串丸さん……私を思いっきり甘やかしてください!!
欲望丸出しで勝手に妄想し、勝手に頬を赤らめる六。ここに誰もいなくて正解である。
脳内桃色状態のまま暫く森を進んでいくと、少し開けた所にたどり着いた。相変わらず、生き物の気配は無い。


「ん〜……余程気配を消すのが達者なのか……」


とりあえず木から降り、視線を巡らせる六。不気味なまでに静まり返った森は、黄昏時のーー橙と黒が織り混ざった妖しい空と相まって異様な雰囲気を醸し出している。
そして暫く辺りを見渡すと、六は一本の木に何やら白い物体が付いているのに気付いた。


「これは、」


その物体に近付いた瞬間、六の視界は真っ白に染まった。




***



「ギャアアアア!!!」

「お、おい……この忍はやべぇ!」

「全員引けーー!?」


銀色の糸が宙に鞭打つ。ひゅるんと音を立てた銀糸は次々と相手を木に縫い付けていく。


「………………」


そして最後に糸を張ると、縫い付けていた忍の体は肉片となった。食い込んだ銀糸には鮮血が伝い、血飛沫が周囲の木や地面を赤く濡らした。強烈な鉄の臭いが面越しに鼻腔を貫くが、彼はさして気にしていない。
今回、彼らに与えられた任務ーーというのも、それは最近土の国から逃げ出してきた過激な爆破行為を行っているという犯罪集団と接触すること。いつの間にか水の国に侵入していたらしく、人は少ないものの、近隣住民からの依頼の下、任されたということである。しかし、ただの犯罪集団であれば、わざわざ忍刀七人衆が出向くことはない。土の国の手配書に明確なことは記されていなかったが、霧の暗部が調査した結果、その爆破行為の中心人物は岩隠の里の禁術である”爆遁”を盗み出した忍だという。結論から言うと、目標は禁術。近隣住民の件はただの建前にすぎない。


”生け捕りにせよ”


それが今回の任務の本当の目的。そしてその適任者が、長刀の七人衆・串丸なのである。彼の刀は敵を捕らえることに最も有効だ。そして彼自身、出身は暗部。専門ではないが、拷問のなんたるかを心得ている。これほど適材適所な人物はいないということだ。六に関しては言うまでもなく、串丸のサポートである。ただの犯罪集団との接触のために忍刀七人衆を二人も派遣しては、相手にこちらの思惑が計られてしまう可能性がある。そのため、忍刀七人衆、暗部以外の人間で串丸と連携を可能にする者……それに該当する六がわざわざ呼ばれたということである。


「………………」


先ほど串丸に襲いかかってきたのは、間違いなく例の犯罪集団の一員だろう。やけに起爆札の使用が多かったのがその証拠だ。しかし所詮は下っ端。ただ爆破行為をするだけの者達なので、実力は忍刀七人衆の足元にも及ばない。

相手を木に縫い付けた銀糸を切り離し、刀の血が乾く前に拭き取る。ーーその時だった。突如、静かな森に爆発音が木霊した。起爆札とは桁違いな威力であるのは間違いない。


「……!」


爆発の起こった方角へ意識を集中させると、そこには慣れ親しんだチャクラが微かに存在している。感知タイプではないが、長年ずっと近くにいたソレだ。考えるまでもない。刀身の赤黒い汚れを拭き取ると、巻物に得物を仕舞わず一気に木々を駆け抜けた。




***



爆発した森からは土煙が絶えず上がり、上空には白い鳥が獲物を見つけたように旋回していた。見ると、鳥は生き物ではなく奇妙な形をしており、そしてその上に、金色の髪をなびかせた少年が青い瞳を爛々と輝かせていた。


「……うん!やっぱ、芸術は爆発だな!」


何やらしきりに頷いては独り言をブツブツと呟く。


「これでまたオイラの芸術が世間に…………うん?」


未だ立ち込める煙の中で何かが煌めいた。その光を怪訝に思ったのと同時に、少年の背中に重い衝撃が走った。


「グッ……!?」


鳥の上から叩き落とされた少年は地上ぶつかる前に体制を立て直した。なんとか地面への直撃を防いだのはいいものの、何が起きたのか把握できていない自分に腹が立ったらしく、小さく舌打ちした。渋面のまま顔を上げると、少し離れた所に一人の女が現れる。


(今のはあの女が……)


今すぐ芸術を披露したいのを抑え、少年は女ーー六のことをじっと眺める。左肩に垂らした三つ編みは少々ほどけており、艶やかな黒髪には先ほどの爆発による土埃が付いているのが判る。頭に巻いている布の結び目には、小さな鉤棒が挿さっており、首元には忍の証である額当てが巻かれていた。


(額当てを見る限りだと、霧隠れの忍だな……うん。しかし……)


少年は思い淀む。というのも、確かに相手に自身の起爆粘土が当たった手応えはあった。それなのに、目の前にいる女は、少々服の先が焦げているものの目立った外傷は無い。そして何よりも不可解なのは先ほどの攻撃である。一瞬で背後に回り込むほどのスピード。瞬身かと思ったが、それにしては消えてから現れるまでのインターバルが短すぎた。


(ていうか…………どっかで見たこと、あるような気が…………)


まじまじと六を眺める少年。六はその間に空中に氷の礫(つぶて)を作っていた。


(なんだあれ!?……氷か?…………ん?氷……?)


左肩に流した三つ編み。頭に巻いた布。結び目に挿さった鉤棒。そして氷ーー氷遁という血継限界を持つ霧隠れ出身のくノ一。
六が礫に火を灯そうとしたその時、少年は弾かれるように大きな声を上げた。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -