「……なんだか、懐かしいです。串丸さんとこうして過ごすのは」


目蓋を下ろしたまま、六は小さく微笑む。お店を開いてからは滅多に里と関わらなくなってしまった。ましてや、長刀の七人衆のように、里の中枢を担っているような人達は簡単に里を留守に出来るわけでもない。……先日の水影は置いておくが。


「里にいた頃は任務が終わってから、いつもこうしていましたよね」


六はやぐらの部下である前に長刀の七人衆の部下なのである。


再婚した母が父に殺され、私達も父を殺してから腹違いの弟と共に村を抜け出した。行く宛もなくふらふらと彷徨っている時に出会ったのが、二人の七人衆だった。どちらとも幼い私達にとっては背が異様に高く感じ(串丸さんに至っては巨人レベルだった)、そして顔が、怖かった。えぇ怖かったですとも。主に再不斬さんが。再不斬さんの顔見て驚かなかった弟には感心したもんだよ。まぁ、そんなこんなで二人に拾われた私達。弟は再不斬さん、私は串丸さんの下でお世話になることになった。
アカデミーに通うことを許可されてからは弟と一緒に勉強したり、串丸さんを通して顔見知りとなっていた七人衆のみんなに実技を教えてもらったり……ちなみに、この頃から既に私と弟は血継限界である氷遁を完璧に使いこなせるようになっていた。否、そうさせられた。いや、別に悪くは思ってないんだけど……指導者が鬼だった。なんせ甚八さんと由利ちゃんのダブルパンチである。甚八さんは鬼畜の権化みたいな人だし、由利ちゃんも普段は優しいけど修行に関しては甘えもクソもないほどの鬼教官。流石は忍刀七人衆の頭。まったく容赦してくれなかった。それで何度も枕を涙で濡らしたのは今となってはいい思い出である。

アカデミーを卒業してからといえば、弟は追い忍部隊に、私は串丸さんの部下として働いた。お揃いのお面が嬉しくて騒いでたなあの頃。そして七人衆の誰かから聞いたのであろう、やぐらちゃんから直々に側近に任命されたのはまだ記憶に新しい。といっても、それからすぐにお店を建てて里を離れたから実際に側近として働いたのは一年程だった気がするけど。まぁしかし、側近となってからは串丸さんと任務に出かけることも少なくなってしまった。その件についてやぐらちゃんに抗議(という名の奇襲)をしたところ、同じ側近である青さんに大いに叱責されましたとも。側近が奇襲とは何事かと、お蔭で私は一週間自宅謹慎をくらう羽目となり、さらに自分の首を締めてしまうのだった。自業自得、当然、有給休暇なわけがない。


……その後?あぁその後はね、私またさっきみたいにぐれちゃってたんだけど察してくれたのか、串丸さんと一ヶ月くらい同じ任務に行くことができた。えぇ、すぐにやぐらちゃんのことは水に流しましたとも。単純?何とでも言うがいいわ!私にとっての最優先は串丸さんだ。異論は認めない。


「……あの頃に戻りたいって、たまに考えるんです」


昔を思い返してみると妙に感慨深いものがある。そんなことをついぽつりと呟いた。


……いや、何を言っているんだ私は。あのときの私は里を離れたいと強く望んていたというのに。
暇潰しという面目で氷を削っているとあら不思議、不格好ながらも氷塊より芽吹いた花に私は心を奪われた。思い立ったらすぐ行動。森をぶらついていると使われていない小屋を発見し、早速リフォームに取りかかった。それからは日々創作活動に勤しんで、里のこと放ったらかしてたんだけど、今ではやぐらちゃんや七人衆のみんなも認めてくれたし、知る人ぞ知る隠れた名店みたいな感じになってからはほくほく顔でスローライフ送ってる。……そんな私が、戻りたいだなんて。見当違いもいいとこだ。……そういえば、お店のドアに休業中の看板をちゃんと下げてきただろうか。


「(今更不安になって、)うおッ!?」


突如感じる浮遊間に思わず声を出し、何事かと思った時にはすでに地上に足をつけていた。なるほど、串丸さんが私を抱えて木から降りたらしい。


「串丸さ、んむ」


発しようとした言葉は、私の唇に置かれた串丸さんの長い指によって遮られた。そしていつの間にか取られていた巻物をひらひらさせてから森の出口へと歩を進める串丸さん。


「待ってくださいよ、串丸さん!あ、まだ任務まで時間あるからどこかでお昼食べましょう!そうしましょう!」


そしてあわよくば仮面を……あ、今日はもう一回失敗したからダメか。残念。
私の考えていることが読めたのか、仮面の奥で串丸さんが苦笑したように思えた。



2016/05/23 改訂




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