一年が経過した。

私は一年前の今日、この世界にやって来たのだ。果たしてここは何処なのか。そう、日本国民なら一度でも聞いたことがあるであろう、ポケットモンスター…通称、ポケモンの生息している世界なのである。


まぁ所謂並行世界、またをトリップという俗語があてはまるのか。兎に角最初はこれでもかってくらい驚いた。人生で一番驚いた。いや、驚かない人なんていないと思うけどね。いたとしたら余程神経が図太い人、環境適応能力が高い人、鈍感、二次元に行きたいなんてほざいてる頭の中がシアワセな女の子、そんな奴らしかいない。生憎私はどれにも当てはまらないので、夢だ、これは夢だと膝を抱えた(某お湯屋に迷い込んだ女の子みたく)しかし、蹲っている私の周りにはいつの間にやら野生のポケモン達が集まっており、遠慮がちにつついてきたりしたので…まあ、嫌々信じることにした。

次に、私の腰にあった二つのモンスターボールの件について。たっぷり30秒考えたが、とりあえず投げてみた。軽快な音と共に赤い光が漏れ出す様子はアニポケと全く同じで、内心感動していたのは言わずもがな。そして光が収まった瞬間、私の視界に満面の笑みを浮かべたユキメノコさんがいらっしゃった。文字通り飛び上がった私だったが、ユキメノコさんからのタックルを喰らい、木の根に頭をぶつけた。その時の鈍痛がこれは夢でないということを語っているようで、何か負けた気がした。
その後、全力ハグをかましてきたユキメノコとその成り行きを静かに傍観していたメタグロスが、ゲーム内での我が相棒であるユキメノコとメタグロスということが判明した。それが判った途端に愛おしく思えてくるのは人としての性なのか、それともただの親バカか。そんなことは置いといて、まずは緊急会議である。


『姐さん?何黙ってるんスか?』
「え?あぁ、ごめんゴールド。…で、何の話だっけ」

おっとそうだった。こんな思い出話に浸ってる場合じゃない。
聞いて判るように、只今私は皆さんご存知のゴールド少年と電話中なのである。つい先程、風呂上りのモーモーミルクを飲もうとした時に掛かってきたのだが…いかんせん至福の時間を邪魔されたので、開口一番に罵ってやった。理不尽だの意味判んねェだの吠えていたがスルー。

『だーかーらー!姐さん、この前言ってたじゃないっスか!近々旅に出るってよ』
「あー…そういえばそうだった」
『…本人が忘れるかよ、普通』
「黙らっしゃい」

ゴールドのくせに最も最もらしいことを言いやがった…やめろ、何か負けた気がしてならん(二度目)

『で…』
「ん?何」
『結局いつ出発するんスか?』
「あぁそれね。うん、明日」
『……………………は?』
「聞こえなかった?明日よ、明日」

そう言えばやけに静かになる電話の向こう側。あいつ、間違って切ったんじゃなかろうかと首を傾げれば、受話器の隣に座っていたトゲチックも同じ様に首を傾げた。ついきゅんときた私は彼女を撫でまわす。くすぐったいのかきゃっきゃと小さな両手をばたつかせ、コロンとひっくり返った。

『はぁぁああああ〜…』
「……何その盛大なため息は」
『姐さんのあまりの無計画さに呆れ果てちまっただけだよ』

受話器の向こう側で人を小馬鹿にしている顔がすぐ思い浮かぶ。そして終いには鼻で笑われた。

『クリスのやつもかなりご立腹のようだし』
「…………ちょっと待て。え、何、クリスちゃんそこにいるの」
『ああ。昨日オーキドの爺さんとこから帰ってきてよ』
「うわぁ……何これ死亡フラグ」

そうです。私、どうしてもクリスちゃんだけには頭が上がらないのです。いやーあのときのクリスちゃん顔といったら、グランブルも真っ青な怖い顔で……げふんげふん。

『姐さん、またクリスこっぴどく怒られるんだろうな!』

大爆笑するゴールドに思わず口元が引きつる。ふつふつと湧き上がってくる怒りを鎮めるために短く息を吐いた。

「ゴールド……お土産、買ってこなくてもいいのね」

煩かった笑い声がピタリと止む。思わず噴き出しそうになったが抑えた。

『ちょっ……!待ってくれよ姐さん!俺が悪かったから、土産無しだけは勘弁してくれ!』
「ふふん。最初からそう言えばいいのだよゴールド少年」
『……完全に弱み握られてるじゃねーか。つーか、姐さんどこ行くんだよ』
「そうねー」

ちょっとホウエン地方まで!
(じゃあ土産はフエンせんべいだな)
(とりあえず1箱でいい?)
(じゃあ3箱で)
(ふざけんな)