二人で八瀬の里を立ち、旅に出てしばらく立つ。
長閑な山道をゆっくりと歩いていた。

「千鬼丸、そろそろお昼にしましょう。」

雪奈は柔らかく微笑みながら俺に声をかけてくる。

「そうだな。」

手近な木陰に二人で腰を下ろした。

「今朝、宿の方からご飯を分けて貰えたので、おむすびにしてみました。ちょっと不恰好なんですが…。」

雪奈がそう言って、少し恥ずかしそうにしながら包みをあける。

「………。」

出てきたそれを見てしばし、言葉を失う。

「あ、あの、すみません。やっぱり、不恰好でしたよね。で、でも味は大丈夫だと思います!」

雪奈が慌てたように俺に言うが、別に俺はそれに関しては問題はないと思う。
確かに不揃いではあるが、綺麗にできている。

…だが…。

「せ、千鬼丸?」

黙ったままの俺を不安気に見つめてくる雪奈を見て、ため息をつく。

「…いや、きれいにできてると思うぞ。」

そう言って一つ掴み口に入れる。

「…旨いし。」

そう言うと雪奈はほっとした顔をする。

「良かったです。」

そう言って微笑むと雪奈もおむすびを一つ口に入れた。

「………。」

釈然としない。
おむすびって言うのは、かじる物だ。決して一口で食べられる物ではない筈なのだ…。

なのに、まるで童が食べるような大きさのおむすびしかない。
大人の俺は一口で食べられる。

何故だ…。

「どうかしましたか?」

黙ったままの俺に雪奈は再度聞いてくる。

「…いや、何でもない。」

雪奈を見ながら答える。
そう、多分俺が気にしすぎているだけだ。
雪奈はきっとこの大きさしか作れなかったんだ…。
そう自分に言い聞かせながらも、何かが悔しくていくつかを一編に口に入れる。

「そ、そんなに慌てなくても、私は取ったりしないですよ?」

雪奈は驚いた顔で俺を見て、むせてもいないのに、背までさすられる。

「……。」

…色々、逆効果……。

そう思うと何だか自分は何をやってるんだろうと思ってしまう。

手振りでもうさすらなくても大丈夫だと示すと、雪奈は微笑みながら俺に言った。

「千鬼丸は、時々本当にかわいいですよね。」

…………………………………。

「……そ、そうか…。」

やっとの事で言葉をふりしぼる。
多分、顔はひきつっているんだろう。

全っ然、嬉しくない。
俺は、お、と、な、の男で、雪奈は俺よりもずっと歳が下の筈…。

可愛い顔で何て事を言いやがるんだ…。


何だかとどめを刺された気分で立ち上がる。

「え?千鬼丸、どうしたんですか?」

俺の突然の行動に雪奈は驚いたような声を出した。

だけど、今は何も答えられそうになく少し歩き出す。

「あ、ちょっと、待ってください!」

雪奈が慌てて追いかけて来ようとするのが分かった。

「千鬼丸!…きゃっ…。」

雪奈は、あまりに慌ててつまづいたらしい。
咄嗟に振り返り、転びそうになった雪奈を支える。

「何してるんだよ。どこにも行かないからおとなしく待ってろよ。」

支えたままの体勢で俺は腕の中の雪奈に言った。

「…は、はい。でも、何だか様子がいつもと違った気がしたので…。」

どうやら、変な事で落ち込んでいた俺は、雪奈を心配させてしまったようだ…。
だから、いつまでも弟扱いみたいになってしまうのかもしれない…。

「…そうか、ごめんな。ちょっと散歩したくなったんだよ。」

俺は、素直に謝る。

「そう、なんですね。…でも、千鬼丸は本当に逞しいですよね。」

雪奈は俺の腕の中で呟く。

「え?」

思わず聞き返すと、雪奈は真っ直ぐな瞳を輝かせて俺を見上げて続ける。

「だって、軽々と私を支えて下さいましたから。やっぱり千鬼丸は大人の男の鬼ですね。」

…………。

今までの俺のうじうじとした気分はその一言で全てどこかに吹き飛ぶ。
同時に物凄く恥ずかしくなり、顔を見られたくなくて、雪奈をそのまま抱きしめる。

「…そういう事、真顔で言うなよ。…照れるだろ…。」

それからしばらく、俺はそのまま雪奈を抱きしめ続けた。





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