ひとつ屋根の下で暮らしはじめて早数年。総司と千鶴は、激動の時代を感じさせないほどの穏やかな土地で暮らすことに慣れ始めていた。何不自由なく過ごしているわけではないが、共に居られるだけで幸せを感じるのだ。
 呼び声ひとつでさえ顔が緩むのを感じる。ちづるー、と少しだけ眠気を含んだ柔らかな声が聞こえた。彼女は隣の部屋から返事をする。昼間に洗濯物を畳んでいるときに見つけた解れを、縫い付けているため手が離せない。いつもはすぐに向かう彼女が返事しかしないものだから不思議に思ったのか、彼は再度彼女の名前を呼んだ。理由を説明すると、何とも素っ気ない返答が返ってくる。
「……怒ってますか?」
「やだなあ。千鶴が僕より解れを優先したからって怒るわけないじゃない」
「総司さんが来てください」
「千鶴が来てよ」
 こうなって小さな言い争いになったときに先に折れるのは、大抵千鶴の方だ。彼女は針と糸を閉まってから、すっと立ち上がる。そして襖に手を掛けてゆっくりと開けると、急に中から手が伸びてくる。その行動を起こした人物はひとりしかいないが、急な出来事故に体が固まってしまった。伸ばされた手は彼女の手首を掴み、そのまま部屋へ引き込む。嬉しそうに口角を上げた総司と視線がぶつかる。驚いた? 悪戯が成功した子どものような声色に、彼女はふふっと笑みを浮かべた。
「びっくりしました」
「随分と余裕そうな顔してるね?」
「そうでしょうか」
「ふうん」
 にやりと笑う総司に少しだけ意地悪をしてしまったことを後悔し始めた。そしてそのまま壁にとん、と軽く抑えつけられる。逃げられないように、彼は右手を壁につき、左手を彼女の腰に添えた。彼の熱を孕んだ瞳が、彼女を確実に捕らえた。

 これは沖田夫婦の或る年、七月二十五日のお話である。






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花都が私の誕生日、日付変更と同時にメールで送ってくれました沖千ですなにこのサプライズ!何を隠そう7月25日は私の誕生日だったり(笑)その日のふたりですって…!“来て”のくだりが可愛いいい。ちなみにこれ以上は書けないってによによしてました(笑)裏に突入するからね!
『夜伽始め』という私が描いた絵を元に書いてくれて、それも本っ当に嬉しかった。花都ほんとにありがとおおお!


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