花の薫りを含ませた柔かな風が頬を優しく撫でて通り過ぎた。 麗らかな春の日差しの中で傘を差して歩くことに違和感を覚えながらも、一歩一歩踏みしめるように進む。 「こういう日を、春風駘蕩って言うのかな……僕とは正反対だ」 自嘲じみた呟きに素早く反応した彼女が揺らぐ視線を僕の方へ向けた。 どうしてそんなことを言うのですかと、声を出さずとも伝わる彼女の不安をこれ以上膨れさせないよう笑いながら答えるけれど、僕の口からは驚くほど乾いた声音が零れ出た。 「だって考えても見てよ。 陽を拒む羅刹となったこの身体だと、こんな穏やかな春の陽でさえ僕の肌に刃のように突き刺さるんだ。発作の回数は少なくなったと言っても、羅刹である事に変わりはないんだよ。 折角、長い戦いが終わって君と一緒に暮らせる様になったって言うのに、僕と君はまだ…、鎖に縛られてる」 『総司さん、私は総司さんと一緒にいれるのであれば充分幸せですよ』 「ありがとう千鶴。 君を困らせるわけじゃないんだ。ただ、こんなにいい天気なのにお天道様から隠れないといけないことが悔しくってさ。 僕はいい。…せめて千鶴、君には笑顔で太陽の下を歩んでもらいたいんだ」 『総司さん…ッ』 千鶴に涙交じりの声で名前を呼ばれて、ぎゅうと心臓が痛む。 僕は君にこんな悲しい声で名前を呼んで貰いたいわけじゃないのに、きっと次の言葉を紡げば、千鶴はその大きな瞳に悲しみの涙を溜めるんだろうな。 だけど、彼女の悲しむ言葉と分かった上で、己が為、安堵を求め心にしまうべき本音を吐露する僕を馬鹿だと、君は笑うだろうか。 きっと笑みを浮かべて そんな僕さえ包み込んでしまうのだろう 「僕のせいで君の自由を奪ってしまった…、ごめん。 でも君の身体を流れる鬼の血が、羅刹の血も薄れていくだろう。一秒でも早くその時が来ることを僕は心から願うよ。 そうすれば君は、いつかは太陽の下を歩けるようになるから、」 『嫌です。私が太陽の下を歩くときは、総司さんも一緒じゃないと嫌です』 彼女の凛とした声が僕の鼓膜を震わし、不安だと揺れる心が絆されていく。 僕の着物の袖を掴んだまま俯いて、まるで子供が駄々をこねるように首を左右に振る彼女の姿が愛らしくて、ふ と笑いを洩らせば、首を傾げて僕を見上げる君の桃色に色づいた頬に指を滑らせた。 「それじゃあ少しずつ慣れていこう」 一緒にね、と添えれば、幸せだと言わんばかりに柔かな笑みを浮かべ僕の手に頬を擦り寄せる君のことが本当に愛しくて堪らない。 この溢れる想いを伝えるすべが見当たらなくて、触れる手から想いが浸透して彼女の心を満たせればと願いを込めた。 浸透する春 ――――――――――――― ベ…ペコさんから相互記念をいただきましたこの沖千ぱねぇっす姉さん… このお話実は、私が描いた「青空の下」を見てカッ<●><●>!!となって書いてくださったそうでうああ! あとお気づきの方もいらっしゃるかもですが総司の最後のセリフ「〜少しずつ慣れていこう」は、ぴくしぶに上げてる方のタイトルだった り そしてこのふたりですよもう感動しすぎてどうしようかと思いましたてかどうしてくれる。引かれるんじゃないかって若干心配しながらも暑苦しい感想は直接伝えたので割愛しますがうああベロさんちょうありがとう…! 私も願わくばふたりの吸う空気に生まれ変わりたい。 ペコさんんん!これからもよろしくお願いします! |