人気のない縁側で一人腰掛けながらぼんやりと視線を巡らせる。ふと視界の片隅に愛らしく頬を赤らめた千鶴ちゃんが俄かに辺りを窺いながら何処かへと向かうのが見えて、殆ど反射的に僕は腰を上げていた。彼女の向う先なんて、知れていた。きっとその様子を見たならば胸が焦げるように熱くなるだろうに、それでも僕は歩みを止めたりはしなかった。

重なり合った影を観止めて、尚僕はその場を退こうとしたりはしなかった。僕にとって永遠とも思えたほんの数瞬の後、真っ先に僕に気が付いたのはやはりと言っていいか当然の如く一君で。ゆっくりとした、それでいて綺麗な所作で顔を上げて、千鶴ちゃんに向けていたのとは違う表情を僕へと向ける。どうやら少し、怒っているみたいだった。(僕にはそんな風にしてくれないくせに)
「…総司、そこで何をしている」
一君の腕の中にいた千鶴ちゃんは一君の言葉に含まれた僕の名前に大いに動揺したのか身じろぎをしていたけれど、一君が落ち着けとでも言うように肩を叩くと、安心しきったように力を抜いた。その様子に、ぬめったような、嫌な感情が湧き出てくるのが分かった。(僕にはそんな風にしてくれないくせに)
「一君てば、そんな野暮な事聞くの。僕が何を見てたかそんなに聞きたい?」
「…趣味が悪いと言っているんだ」
ああやはり怒気を孕んだその声に、僕は不快感ばかりを募らせて行く。(僕にはそんな風にしてくれないくせに、なあ)
「…趣味が悪い?うん、確かにそうかも知れないね」

だって僕今、どっちにも妬いてるんだもの。

僕の放った言葉の意味を図り兼ねた一君の唇にまず唇を重ねて、油断しきった口内に舌を差し入れた。彼女の熱の余韻がまだ残ってるのかはてさて僕が熱を燻らせていたからかやたらと熱い口内を思うがまま凌辱し、状況を以前把握し切れない一君の唇を解放して千鶴ちゃんの顎を掴んだ所で、首筋に刀を宛がわれる。少し息を乱した一君に構わず千鶴ちゃんに唇を重ね合わせた。首の薄皮の一枚や二枚が切れたのか、つ、と一君の刀に僕の血が伝っていく。何だか、酷く煽情的だ。痛みをまるで覚えなかったのは、それ以上にきっと僕が欲情してしまっているからなのだろう。無駄だと気付いたのか僕を押し飛ばそうとした一君を無理矢理に壁に押し付ける。千鶴ちゃんを抱いている以上、一君が無茶を出来ない事は想定の内だった。千鶴ちゃんは心底驚いた表情で僕を眺めていた。何がそんなにおかしいのか、理解出来ずに僕は少し困惑する。ほんの、少し。…ああ。男が男に口付けたから、それがおかしいのか。…どうしてかなあ。どうしてみんな好きじゃ、駄目なのかなあ。だってどっちかなんて選べないんだ。どっちも同じ位欲しいんだ。だって仕方ないじゃないか。千鶴ちゃんはどんな風に抱かれるのか、とか、千鶴ちゃんはその刹那どんなに甘い声で鳴くんだろうか、とか、一君はどんな風に千鶴ちゃんを抱くのか、とか、一君はその刹那どんなに甘い言葉を千鶴ちゃんに掛けるんだろうか、とか、全部知りたいんだもの。そうするには、どうすればいいんだろう。そこまで考えて、それから不意に浮かび上がった答に僕の心は悦びに打ち震える。

(なんだ、簡単な事じゃないか。みんな、僕のものにしちゃえばいいんだ。)

再度躊躇いなく口付けた唇に大きく狼狽した一君と千鶴ちゃんを逃がさないようにと腕の中に捉えて、生温い吐息と共に僕は囁いた。

「ね、僕も仲間に入れてよ。だって僕、一君も千鶴ちゃんも、大好きなんだよ」

ほら、そしたらみんなみぃんな、幸せになれるじゃない。








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あまりにもツボなお話で、我慢できずにさらってきてしまいました。ほんとにもう、たぎりすぎて禿げあがるかと…!読み返しては禿げる心地がします大好きです…!
素敵な沖斎千をありがとうございました!

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