花井に彼女ができたなんて聞いてない。けれどあれは確かに花井だ。俺が見間違えるはずがない。それをこんなに恨めしく思ったのは初めてだった。
チューしてた。

俺は反射でその場から脱兎の如く逃げ出した。どこへ逃げていくのかわからない。ただあの光景が頭から離れない。なんだあれは、何。キスシーンなんて兄ちゃんと彼女のやつを見ても動揺もしなかったのに。なのに。
ふらふらと辿り着いたのは部室だった。上がった息がうるさい。鍵のかけられていない中へと入る。そのままぺたんと腰を下ろした。
あいつは昨日もここで、何にも変わりなく、俺の頭をくしゃくしゃ撫でて、あの熱い視線で、あいつはキャプテンで、それで。

ああもう既にあの時には花井はあの子のものだったのか。
心臓がじくじく痛んだ。手のひらで胸をぎゅうと掴む。痛みが腹の底まで響くようで小さく丸くなった。頭がガンガン、チカチカ、目が回る。どうして、花井。吐き気がした。気持ちが悪かった。あの女の子は誰なんだろう。花井の太い腕は彼女を抱き締めて、甘やかして、髪を撫でて、キスをして、体じゅうを愛撫して、突っ込んだりするんだろうか。花井は彼女とひとつになるのか。繋がって、愛し合って。
急に吐き気が襲ってきて、吐きたいはずなのに吐けなかった。腹の中にある気持ちワルイもの全部吐き出したい。なのに俺ができたのは目から生温い涙を垂れ流すことだけだった。



誰かの何かに
ならないで



100428/田島と花井

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