「花井〜」
「なに」
「こっち向いて」

言われてふ、と振り返った瞬間にパシャリと軽快な音。眉を寄せた俺に、カメラを下ろした田島がにんまりと笑った。

「いきなり撮るなよ!」
「いきなりだからいいんじゃん〜」

花井のビックリした顔スキ、と満面の笑みで言われたら何も言い返せない。振り返った体を戻してソファの背もたれにもたれかかる。無視すんなよなぁ、と背もたれの後ろから田島の腕が巻き付いてきた。

「ビックリした顔、って、マヌケだから嫌いなんだよ」
「花井はマヌケじゃないよ」
「俺からしたらそうなの」
「んー、いつもより幼い感じになるよね」

それがイイんじゃん、と言う田島の手がカメラを持ったまま俺の首もとで揺れているので、小さなカメラを取り上げる。背後からのあっ、と言う声を無視して素早く操作、消去。耳元であああああーっ!!!とうるさい。

「うるせー」
「なんで消しちゃうの!?可愛かったのに!!」
「勝手に撮るからだ」
「花井メモリアルを残しておきたいんじゃん〜」

ぐだぐだ恨み言を耳元でつぶやく田島をなだめることもせずに、今までの写真を見てみる。いつの間にか寝顔を撮られていて消去しようとすると田島の手にカメラを奪われた。あっ、と振り返ると、真剣な顔でそれ超お気に入りだから絶対ダメ!と言われた。

「なんで花井自分の写真消しちゃうのー!?」
「お前俺が知らない内に撮るだろ、恥ずかしいんだって!」
「えー、俺は花井を撮りたいし、花井にも撮って欲しいよ?」

そんなに言うなら花井も俺を撮ってよ、それでおあいこじゃん、とよくわからない理屈でカメラを渡される。渋々と言うか何というか、何が減るわけでもないので素直に振り返りカメラ越しに田島を見た。田島のドアップが画面に写っている。
あ、そばかす、薄くなってる。

「おまえ、そばかす薄くなったよな」
「そーかな?」
「そうだよ」

気付かなかった、と言いながらそばかすを撫でる。その指先は太く、こちらから見ると斜めに見える田島の顔がひどく大人びていることに今更気づいて、思わずシャッターを押していた。えっ、と田島が驚いた顔でこちらを見ているので、いたたまれなくなって目を逸らす。

「え、今俺なんかした?」
「…なんでも」
「何だよー、撮るならちゃんと言ってよ!俺変な顔してなかった?」
「ほら、俺の気持ちがわかっただろ」

少なくとも俺は、お前の気持ちがわかったよ。移り変わっていく季節と、生活の一瞬一瞬と、何気ない表情をひどく大事にしたい気持ち。同じ毎日が続いているようで、何から何まで変わっていってしまうものだから。

埃をかぶったアルバムを出して、今まで生きてきた日々を振り返ると懐かしくて笑えた。いつの間にこんなに時が過ぎ、いつの間にこんなに一緒にいたのだろう。田島がアルバムを見ている横顔を撮ったら、俺も撮りたい、と田島がアルバムの中の写真よりずっと大きくなった手を伸ばす。
ファインダーの向こうで笑う。覚えておきたいんだよ、昔の花井も、今の花井も。

「おまえ、俺のこと好きだよなぁ」
「花井もでしょ?」
「…そーだよ」



Happy Birthday Azusa Hanai!
2011/4/28
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