※女体化
※百合









いつも悲しいよ、と隣に座る悠が言うから、私は驚いて動作を止めざるをえなかった。見下ろした唇はまるで可憐な少女みたいにばら色で、緩やかに弧を描いている。そばかすの浮いた幼い顔はこちらを見ていない。まめだらけの指先でペンがゆらゆら揺れていた。

「…なにそれ」
「センチメンタルなお年頃なんだよ」
「言っちゃ悪いが、似合わないなぁ」
「梓はいつもきびしい」

今度はこちらを向いてニィと笑う。見覚えのある笑顔に安心した。悠は変な奴。いつも明るくて馬鹿で、そしてちょっぴり不可解だ。

「お前はわっかんねー奴だな」
「梓にはわかんないよ」
「私には?」
「うん」

私のベッドにもたれかかっていた悠はそのまま上体をベッドに倒した。くるりと反転してうつぶせになる。柔らかくもない布団に頬を擦り寄せてため息をついた。

「いじめてるわけじゃないよ」
「…わかんね」
「わかんなくていー」

中学生くらいだったからだろうか。元々端的な言葉使いでわかりにくい悠の言葉が理解できなくなったのは。悠が私にわからない会話をする。それは私にとってかなりの衝撃だった。生まれた時から一緒の、言ってみれば双子のようなものだったのに。親にだって言えない事も悠とならわかりあえた。今、私は悠のかなしみを理解できない。それに慣れるのがとても悔しい。

「梓は変わんないよね」
「そうか?」
「うん、生まれたときから」
「お前は?」
「あたしも変わってないよ」

わかるでしょ?と言われて曖昧に頷く。悠自体は変わっていないのかもしれない。ただ私たちを繋ぐ線の色は確かに変わった。
私たちはもう双子ではない。

「…微妙」

悠のかなしみを私が理解できないように、今生まれたかなしみを、悠は理解できないだろう。悠は昨日のことを振り返らない。
私は目をつむって夢想する。広がっていく私たちの間の溝。その向こう岸に立って悠は微笑んでいる。わからなくていいと笑って、ばら色の唇で。私たちはもう一つになれないの?と聞くとなれないよと言う。私にはそれが悲しいのだ。




海よりも藍色
100911/悠と梓
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