今まで特に意識したことのなかった違うクラスの女子が告白してきた。そうなると何となくその子が魅力的であるような気がしてきて、1日待って貰った上で付き合う旨を彼女に伝えた。思春期の、よくある話だ。恋愛と性に敏感なお年頃。そしてそれを恥ずかしいとは思わなかった。バッターボックスはあんなにも恥ずかしいのに、不思議だ。


「ど?付き合うの?」
「あぁ」
「良かったじゃん!」

帰り道で田島が目を輝かせる。告白してきた彼女は9組だったので田島に彼女のことを聞いたのだ。クラスの中でも大人しい方だが、優しく柔らかな印象で男子からも女子からも評判がいいらしい。いい子だよ、消しゴム貸してくれた、花井と合いそうと言っていた。確かに騒がしいより落ち着いている子の方が好みだ。

「ありがとな」
「いーよ!花井に彼女か〜このモテ男め、俺より先に童貞卒業すんなよ」
「バッカ何言ってんだよ!てかお前だって告白されんだろ?付き合えばいーじゃん」
「俺は野球が恋人!」

笑って言う田島に心臓がツキンと痛んだ。彼女欲しいだのセックスしたいだの普段はうるさいくせに、野球に対して田島は誰よりも真剣だった。野球のためならそれ以外の何も必要としない。彼女を作ることに何の疑問も抱いていなかった自分をひどく情けなく思った。田島がこちらを見ている。どーしたの、と笑っている。


野球部の奴らに散々冷やかされたけれど、ミーティングの日は待っていた彼女と一緒に帰った。一番騒いで囃し立てるだろうと思っていた田島は予想外にとても大人しく、俺に群がる集団から少し離れてこちらを見ているだけだった。そして皆と別れる時に、肩を叩いて耳元でガンバレと声をかけてきた。

「今日こそヤれるように!」
「うっせぇよ!」

その日、彼女の部屋で初めてキスをした。気持ちが良いはずなのに何故か釈然としなかった。


「好きな人ができたの」

そう告げられたのは付き合い始めて2ヶ月が経った頃だった。野球にかまけて一緒にいられる時間が少なかったのかもしれない。彼女は何回もごめんなさいと謝ったけれど、俺は彼女の態度や行動に一度も不満を抱いたことなどなかったので、いいんだ、こっちこそごめんなと謝った。水谷あたりによく鈍感だと言われるが、きっと彼女のサインを何度も見落としていたのだろう。自分が不甲斐なかった。彼女はそれを聞いて、花井君は何も悪くない、私が悪いの、本当にごめんなさい、とまた頭を下げた。


「大丈夫?」
「…何が?」
「別れたんでしょ」

彼女と付き合った日と同じように、帰り道で田島が声をかけてきた。その目は静かで、俺は応援してくれた田島にも申し訳ないと思った。応援してくれたのにごめんな、と言うと、花井はばかだなぁと目を細めた。

「ほらぁ、慰めてあげるから、おいでよ」
「何それ、俺首痛いんだけど」

田島が俺の頭に手を伸ばして抱き寄せてくる。身長差があるので厳しかったが、俺は素直に引き寄せられるままにした。笑いながら少し泣いた。思ったより彼女を好いていたみたいだった。

「お前、女子にモテるだろうになぁ」
「花井のがモテるじゃん、きっとすぐ彼女できるよ」
「俺は…しばらくはいいや」
「そっか」
「ありがとな」
「うーうん、またフラれたら慰めてあげる」

不吉なこと言うなと田島の肩から顔を上げて笑ってやると、まってる、と言って固い指先が俺の首を撫でた。田島は笑っていた。嬉しそうに。



蜘蛛の恋
100810/田島と花井
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