※女体化田島×女体化花井
















多分、生まれたときから、男になりたかった。



制服のスカートもリボンも香水もシュシュも何もかもが嫌。生まれた時からそうなんだからこれからも変わるわけがない。あたしがそう言うと皆は笑って「大人になったらわかるよ」と言うけれどそんなことを知るのなら大人になんてなりたくなかった。多分、きっと、絶対、知らないまま。それはあたしが生まれたときからバットとボールが好きなのと同じことだ。


「悠テメー、堂々と遅刻すんじゃねぇ」
「いいじゃん幼なじみのよしみじゃん」
「お前のよーな幼なじみは知らん」

ふわふわの髪を短く切った梓があたしの胸倉を掴む。あたしは生まれたときから、梓の髪がふわふわで触り心地がよくて、そんでもってそれができるのは自分だけだってことを知ってる。梓の腕で風紀委員の紋章みたいなやつが揺れてる。胸倉を掴まれながらそれを引っ張った。

「ねぇ」
「なんだよ」
「風紀委員辞めなよ」
「お前は遅刻すんの止めな」
「部活遅れんじゃん」

きゅっと口を閉じた梓をじっと見つめた瞬間、梓の先輩とやらが胸倉を掴んだ掴まれたのままのあたしたちの間に割り込んできた。あたしは大丈夫かと聞かれて、梓はちょっと怒られてる。やっぱ風紀委員辞めた方がいいよ。何回だって、言う。


梓がやっぱり遅刻してきた。委員会があったらしい。梓はあたし達がいるソフトボール部のキャプテンで、風紀委員で、あたしの幼なじみ。どれかを取るって言うならキャプテンを一番にして、次は幼なじみにして欲しい。

「梓」
「しゃーねーだろ」
「逃げんなよ」

梓は固まってから怒ったような泣き出すようなへんな顔をした。あたしは少しだけ、梓が泣くのを見たかった。だってあたしは知ってる。梓が委員会終わってからも、センパイと少し話していること。そうやって、あたしから逃げたいこと。あたしは梓の周りにいる男が全部いやだ。梓が、恋愛なんかにうつつを抜かしてつまらない奴になるのも、梓がチューされるのも、…抱かれるのも、絶対にいやだ。身の毛がよだって胃がねじれて、頭の中が真っ赤になるくらい、いやだ。

「おまえ、が、」

梓は泣かなかった。遠くで野球部が練習している。キン、と澄んだ音と、ボールと、バット。あたしは全部持っていた。なのに甲子園だけは手に入らない。あたしは生まれたときから、野球をやる資格とペニスを持っていない。

「…あたし、男に生まれたかった」

そうしたらあたしは梓を甲子園に連れていって、あたしと梓は繋がることもできて、何もかもが完璧だった。でも神様は間違えて、あたしは女で、ペニスもついていなくて、あたしも梓も全部不完全なままで。

「梓」
「…なんだよ」
「なんでもない」

黙って目を細めた梓の横顔は驚くくらいきれいで、あたしは少し見とれた。梓は毎日きれいになって、毎日、少しずつ女になってく。いつか、あたしが嫌がっても側から離せない男が出てくるんだろうか。梓を埋めるものを持つ誰かが、さらっていってしまうの。

たぶん、生まれたときからずっと、梓が好きだ。

「練習」
「…ん」
「いこーぜ」

梓が私の手を引いて走る。細くて大きな手だった。あたしを置いて大人なんかになってしまわないで。わかったふりをしないで。あたしから逃げないで。…好きだよ。言いたいことはたくさんあるはずなのに、その全部は喉の奥で潰れて消えた。




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100726/悠と梓
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