じりじりと照りつける日差しから逃げる術もなく、リアカーに凭れ掛かり高尾の帰りを待ち続けて幾星霜。いや、流石に星霜は過言だったな。どうやら暑さの所為で思考回路が上手く回っていないらしい。
緑間は額に浮いた汗を拭って高尾が戻ってくるのを今か今かと待ち侘びる。たかがその辺の自販機でおしるこを買ってくるだけなのに、一体いつまで待たせる気なのだよ。

「緑間ァー!」

苛つき始めたところで、漸く鼻の頭を赤く火照らせたソイツがのうのうとやって来た。緑間は息を荒げる高尾に向かって悪態をつく。

「…遅い。一体何処をほっつき歩いていたのだよ」
「ごっめーんて。はいこれ」

高尾から否応なしに押し付けられたのは冷たいおしるこの缶ではなく、慣れ親しんだコンビニエンスストアの袋だった。おしるこを頼んだ筈なのに、と緑間は困惑する。
ちらりと袋の中身を一瞥すると、どうやら氷菓子のようだった。

「おい高尾。オレはおしるこを頼んだ筈なのだが」
「たまにはいいじゃん。さ、早く食わないと溶けちまうぜ?」

高尾はビニール袋を漁ってアイスを一本取り出し、袋を開封する。中からはパッケージと同様の薄青色の本体が顔を出した。
高尾は前髪を掻き上げながらそれに齧り付く。さくり、と清涼感のある音を立てて咀嚼する様を見て、思わず固唾を飲んだ。
緑間の視線に気付いた高尾は、眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をする。

「ん、どしたの真ちゃん」

突然そう問い掛けられて思考が停止する。え、あ、と何度も口篭もりながらも、何とかそつない返答を導き出した。

「どうせならあずきバーかあいすまんじゅうがよかったのだよ」
「まあそう我が儘言いなさんな。こう暑い日にはさっぱりしたゴリゴリ君が格別美味いんだ」

それに金欠の学生にも優しいお値段なんだぜ、と聞いてもいないことをべらべらと捲し立てる。動揺していたことを悟られず、なんとかごまかせたようだ。
緑間は内心ホッとしつつも袋から梨味と書かれたアイスを取り出す。そしてあまり気乗りしないまま包装を開けると、梨の甘い香りが漂ってきた。
ほら早く、と高尾に急かされ、淡黄色のそれに遠慮がちに歯を立てる。シャリ、と軽い音と共に口内に梨の味と心地好い冷たさが広がった。

「どう?」

高尾は期待に満ちた面持ちで、ずいと顔を寄せて問い掛けてくる。
ハッキリ言って、悪くはない。寧ろ暑い夏にはぴったりの爽やかな味で美味だと思う。だがそれを高尾にありの儘伝えるのは少々癪なので、わざと小憎らしい返事をしてやろう。緑間は高尾から目を逸らして顰めっ面をした。

「フン、思っていたよりはマシな味だったのだよ」
「本当、素直じゃないなー」

高尾は苦笑しながらまた一口アイスを口に入れる。緑間もつられてアイスにがっつきながら、目の前の高尾によってソーダ味と思しきアイスが見る見るうちに噛み砕かれ喉がごくりと音を立てる様子をぼんやりと見ていた。
高尾は目敏くそれに気付いて、にやりと薄ら笑いを浮かべる。

「あ、ひょっとしてオレが食べてるソーダ味の方がよかった?」
「……別に」
「んー、よしっ!」

高尾は大口を開けて最後の一口を豪快に頬張る。

「何がよしなのだ、よ……」

緑間の抗議は高尾の唇によって無理矢理飲み込まされた。それだけでは憚らず、高尾の口内を経由して殆ど液状になったソーダ味のアイスが緑間の口内へと流れ込んでくる。最初は冷たかったそれが、舌の上でどんどん温くなっていくおぞましい感覚に身を捩りながら唸る。不快感を訴えようと高尾の背中を強く叩くが、高尾は全く意に介していないようで、緑間がそれを飲み込むまで唇でずっと栓をしていた。

「お味の程はいかがですか?緑間クン」

緑間が仕方なしに液体を飲み込んだところでやっと唇を離した高尾は、なんとも狡猾な笑みを湛えて舌なめずりをする。緑間は息を整えながら、暑さの所為で思考が鈍っているとはいえしてやられた自分の浅はかさに溜め息を吐いた。

「……不味い」
「またまたァ。本当は美味しかったんだろ?さあて、ぼちぼち帰るとしますか」

そう言って自転車に跨がる高尾の後ろ姿がいつもより浮ついているのを、緑間は見逃さなかった。
緑間は促されるままリアカーに乗り込み、馬鹿め、と小声で毒づいて溶けかけている梨味のアイスを齧った。

2012.8.8
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