「お待たせ致しました、御注文の品のストロベリーパフェです」

バイトの若いウエイトレスが、小さめの可愛らしいテーブルの上にコトリと置いたのは、透明な容器に目一杯フレークやクリーム、ストロベリーソースがけのフルーツが入れられたパフェ。
頂点にはストロベリーアイスが二個も乗っている。

「うわぁー!!なんて美味しそうなパフェなんでしょう☆ねぇ、三成さん」
「・・・ん?ああ」
「・・・・・・・・むぅ」

鶴姫と三成は、都内某所のスイーツが美味しいと評判の喫茶店に来ていた。
花が飛ぶ程嬉しそうな表情の鶴姫と打って変わって、三成は興味なさ気に呆けている。
というのも、鶴姫が甘い物食べたいという理由で半ば強制的に彼氏である三成を(甘い物が苦手なのに)連れて来たからだった。
良い言い方をすれば、デートという物である。

店に入るなり鶴姫は一番人気のストロベリーパフェを注文。
三成は当然、スイーツが評判の店なのにブラック珈琲一つしか頼んでいない。
それどころか、鶴姫のパフェが来るまでの間に語っていたスイーツの魅力にも殆ど耳を貸さなかった。

そんな三成の態度には流石の鶴姫も芳しく思わなかった。

だが、鶴姫はこの石田三成という青年が興味の無い事には一切関心を抱かない性格だという事を痛い程熟知していたので、不服ながらも目の前に置かれたパフェに視線をやる。

(ああ、なんて美味しそうなんでしょう・・・!!)

店内の電灯や屋外からの日光を受けて艶めかしく光るパフェの姿は、スプーンを入れる事すら躊躇ってしまう程美しい。まるで一種の芸術品のような造形美を感じさせる。

「なんだ、注文した癖に食わないのか?」

声の主である三成の方を見遣ると、延々とパフェをうっとり見つめていた鶴姫を怪訝そうな顔で見ていた。

(・・・なんて乙女心の解らない人でしょう・・・)

「・・・三成さんこそ、その珈琲飲まないんですか?冷めちゃいますよ」
「ああ。それで丁度良いんだ」

と、言いながら三成は、珈琲の湯気を手でぱたぱたと払う様に扇いでいる。

「・・・ひょっとして猫舌なんですか?」
「・・・・・・・・」

三成は恥ずかしそうに目線を斜め横に逸らしてこくり、と頷いた。

「あれ、だったら何故最初にホット珈琲にしたんですか・・・?確かメニューにはアイスもあった筈ですよ」
「いや、しかし男がアイス珈琲など・・・」
「・・・はい?」

キョトンとしつつ純粋な疑問を問うと、妙な返答が返ってきた。

「いや、だから、その・・・男なら熱々の珈琲以外は以ての外だと半兵衛様が仰っていてだな、」
「・・・ふふっ」

鶴姫に笑われた事が余程恥ずかしかったのか、三成の顔が見る見る内に熟れた林檎の様に赤らんでいく。

「なっ、何が可笑しい!!」
「だっ、だって・・・ふふふっ」

半兵衛さんったらなんてしょうもない嘘を・・・。
今の今まで信じて疑わなかった三成さんも三成さんですが。

「あのね三成さん、男の人もアイス珈琲を飲んで良いんですよ?」
「何!?」
「っていうか冷ましてたんじゃあホット頼んでも変わらないじゃないですか」
「・・・・・・・・・あ」

面白い事に、この青年は年下の無知な少女に言われてその事実をたった今知った様だった。

―この人、頭は良いのにお馬鹿さんなんだから。

この見た目と内面のギャップが母性を擽るのだろう。
この青年が愛しくて仕方がない。

「ほら、そろそろ程よく冷めた筈ですよ!」
「あ、ああ・・・」

話し込んでいる内にパフェのアイスは溶け、珈琲の湯気は何時の間にか止まっていた。

三成は気を紛らわす為か珈琲を縋り付く様に飲み下す。

鶴姫も慌てて半分液体になってしまったストロベリーアイスをスプーンで掬って口に放り込む。
途端、口内に甘い味が広がる。
舌触りの滑らかなストロベリーソースと相俟って、鶴姫の中で大いなる革命が起こった。

「美味しい・・・」

思わず顔が綻ぶ。

「・・・良かったな」

三成さんは、珈琲を啜りながらくぐもった声でぽそぽそ呟いた。
心做しか、三成さんの頬は未だ色付いている様に見えた。


―嗚呼、なんて至福の時でしょう!



「また来ましょうね☆」
「・・・気が向いたらな」



end.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -