※なんだかいやらしいです





貴方は私をまじまじと見て「美しい」と呟き、何時ものように私の唇を食む。その時の貴方はまるで肉食獣のように獰猛で、瞳はぎらぎらと鋭く輝かせている。
間近で見るそれは恐怖の念を呼び起こすであろうが、私は純粋に綺麗だと思った。同時に長く白い睫毛と絹のような目蓋で翠色の宝石を包むみたいに隠しておくなんて勿体無い事をするな、と常日頃思う。

長い間蕩けるように甘い口付けを交わしたあと、貴方は何時もこう問い掛ける。

「私が怖くないのか」

私はそう聞かれる度に、貴方の震える瞳をべろりと舐めてみせる。すると決まって貴方は擽ったいと言って優しく微笑むのだ。
私はその溶けて消え入りそうな微笑みが大好きなんだ。私は余所行きな笑顔を取り繕って貴方の柔らかな髪をふわりふわりと撫で付ける。

「怖いなんて事はありません」

ただ、貴方と私という別々の存在であるのがもどかしいだけ。
細く骨張った指に私の指を絡ませる。嗚呼、なんと心地好い冷たさだろうか。
貴方は自由なもう片方の手で私の切り揃えた前髪を弄り出し、やがてゆっくりと口付けを施す。
何でも、焦がした砂糖のように甘く快い何かを感じて安心するのだそうだ。きっと私にとっての貴方と同じ。

「ねぇ、もう一度」
「ああ」

肩に爪を立てて催促をすれば、躊躇する事なく髪を弄っていた手で私の頬を撫でる。私は悪戯に真似て貴方の痩けた頬を撫でてみせる。私の肌より蒼白いその肌は私の指を滑らせるようで、飲み込むようで。

何となく絡ませたままの自らの手と貴方の手を見たら、憂鬱な気分になった。

「私と貴方はどうして違ういきものなんだろう」

貴方は黙って私の目蓋を空いた手で覆い隠すように塞ぐ。私の無能な瞳は自らの眼瞼裏の暗闇を映すだけ。

「見える景色も、感じる物も、全て三成さんと一緒がよかった」

暗闇の中でぽつりと言い放つと、貴方は一瞬だけ絡ませている指先の力を強めた。でもすぐに強張りは解けて、唇に柔らかな物が押し付けられる。その正体が何かはすぐにわかった。

貴方の、マシュマロのような唇。

先程とは打って変わり、触れただけのそれは思い直したようにすぐに離れていく。ああ、もどかしい。
そしてお預けを喰らった下唇をきりりと噛んでいると、鉄錆の味が口内に広がる。どうやら力強く噛み締め過ぎたらしい。

貴方はくすりと笑って塞いでいた手を離し、私の唇をぺろりと舐める。塞いでいた圧力でぼやけた視界からは、白い肌の中に一際美しく紅梅色に染め上がった貴方の唇が目映く見えた。それが私の血の色だとしても煌びやかに見える。

「貴様は何処を食んでも甘い味がするな」

貴方は冗談混じりの口調で舌舐めずりをしてみせる。艶やかな赤が舌に纏わり付く様に思わず背筋がぞくりとした。

「私は貴様と別々の存在でよかったと思う」

口を窄めて何故かと問い掛けると、私の身体を片腕だけで軽く抱き締め耳元で囁いた。

「何もかも同じだったら、こうして触れる事も出来ない」

成程、その答えに心から納得しました。確かにそれは嫌です。未だに絡ませたままの指先に力を込め、貴方の鎖骨に顔を埋める。貴方も呼応するように指先の力を強めた。



ディペンド・メランコリー





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