でもその選択肢しかなかったの | ナノ

(勝→←志摩)(切なくも甘くもないぐだぐだ)








と注がれたやわらかな水に反射して歪んだ自分と、向こう側に柔らかさが薄れてきたじりり、と窓から忍び込む光を受けとって瞬く坊をそれとなく目に映してゆうるり睫毛を伏せる。
水が入った硝子製のコップは光を内包した汗をうっすらかき、夏の兆しを見せていて、それが嬉しいような、そうでないような。
夏は女の子のあの艶やかで柔らかく弾む露出した肌を堪能できるという意味では大好きだが、あの纏わり付くような重たすぎる暑さはとてもじゃないが好きになれない。

「…と、思うんやけど坊はどう思います?」
「何についてやねん、どあほ」
「夏です、なつー」
「まだ梅雨やろ、ぼけ」
「ええひどいわあー素朴な疑問に答えてくれてもええんとちゃいますかー」
「勉強せえ」

そういっていつも通り自分の世界にまた沈みこんでいった坊はまだきらきらと光っていて。
とても自分のような人間が干渉してはいけない、と思った。
いつも勉強している坊を見てはそう思いつつ、はじめて気付いたように不安になる。
あの世界の片隅でもいいから飛び込んでしまいたい、そしてこっちを向いて欲しい。
そんな革命的な考えがなんとなく自分でも怖い。この考えの根っこに名前をつけるなら恋心であると自分でも気付いている。憧憬と恋情ともはや家族愛のようなものが混じった複雑な恋、下心の添加物と座主の血と志摩家の関係いう障害物付き。

でも、坊はたぶん。
許してくれる。

というか絶対に受け入れてくれるのは分かっているのだ。身内になんだかんだ甘い坊は自分を突き放したり見捨てたりしない、大事にしてくれる。
それがいやなんや。
受け入れた先がまるで見えない。受け入れておしまい、おわり、続きはない、望めない。
男同士という強固な網の上にさらに明陀での関係という網を被って搦め捕られてラスト、に決まってる。
(坊はそんなの乗り越えてしまえるかもしれんけど)(なんたって坊やし)(でも俺は無理や)
だから受け入れられてもなんのメリットもない。それなら女の子達の柔らかな肢体を求めた方がずっといい、メリットは断然にあるし、男として本望で、正しい生き方であろうと思う。この道を外れるのは怖すぎる。

目の前の大きな世界が眩しくて眼をすう、とほそめる。頬に感じる机の無機質にはあ、と音を吐く。どうにもならないことをどうこうしようというやる気はまるでない。ただ目の前で落とされる文字を生み出す音の粒に少しでも長く溺れられればそれで十分だ、それ以上になると逃げ場が無くなってしまう。
ぱき、とシャーペンの芯が折れる音がして、網膜に投影中だった容器に納まる水面から坊の顔へ視線を動かしてしまった。
ぱち、と目線がかちあって思わず瞬きできなくなる、酷く小さく自分の姿が光を受け輝いてる世界に映りこんでいた。

「…、ぼん?」
「っ、やめや、その姿勢」

寄せた眉に伝う汗と薄い朱がのった頬にやっぱり夏は間近なのだと実感する。
彼の生活スペースにおいて勉強しない姿勢はお許しはいただけないようだ、と結論して子猫はんは構ってくれへんのやろうしどこへ行こか、と膝を立てると制止の声が飛び出す。

「どこ行ことしてはるんや」
「…、へ?」

まったく予想だにしなかった言葉を撃ち込まれて戸惑う、だって坊は俺が勉強の邪魔やったんやないの?

「お前に言うたんはその上目遣いの姿勢の方や」
「はあ、…え、なんで」
「…言わん」
「ええ!!気になりますやんかっ坊のむっつりいいい」
「ばっ!ムッツリやない!」
「必死になるところがまた怪しいですわ」

こうやって一生涯曖昧な深い海に溺れて笑い合って生きていければ十分だ、海上を臨もうなんて望めない。
答えはいらないから一生懸命気付かないふりでいましょう、坊、と音を舌に乗せないで電波を送る。
そんな電波を受け取りもしてない目の前で何やら空回ってる大事な人がやっぱりどうしようもなく愛おしくて、そんな自分がすこし怖かった。


臆病者は逃げ出せない
(それでも)(離れられないなんて)(ドMやあるまいし)



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勝志摩がちゃんとくっつくのを私書けない気がしてきた…!こう、怖くて身動きできないヘタ廉造が好きなのだろうと思う…
らぶらぶなのも読むのは超すきですいえい!


title:ことばあそび

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