目尻を赤くしてテーブルに懐くヨハンを横目に見止めて、2本目も半分空いたボトルに視線を遣った。どこからかヨハンがくすねた酒だが、ラベルを見ればそれなりに強かった。それをストレートで次から次に飲み下すヨハンを、随分と早いペースだと眺めていたが特別に強いわけでもないらしく、順当に潰れた。酔いの熱で潤んだ青い目はうろうろと空を彷徨っている。それでも透明な酒の残るグラスを手放さないヨハンに嘆息。ソファに並んで座る彼の手からグラスを抜き取る。酔っ払いはそれを認識したのかしてないのか、ぼんやりとした目でのろのろそれを追ってしばらくしてから「あ?」と声を漏らした。

「too muchだ、ヨハン」

 ジムがひとつきりの瞳に呆れを乗せればなにがおかしいのか、ヨハンはへらりと口角やらなにやらを緩めた。その表情は少年の歳をいくらか幼く見せた。「十代がさあ」と言う声までをもアルコールはどろどろに溶かしていた。

「隙なんて見せてくんないんだよなあ」

 ヨハンの言葉が独語なのか自身に話し掛けているのかの判別がすぐには付かなかった。よくよく言葉をかみ砕いてのち、そういう諸々を含めてジムは「what?」と返した。当のヨハンは聞いているのかいないのか、今度はソファに体を深々と沈めて溜息ともつかない声を漏らした。

「見せないんじゃなくて、ないんだなあ」

 しみじみと落ちた言葉は吐息に混ざって、ともすれば自身の気のせいかとすら考えた。

「あいつはまっすぐすぎて、たまにこわい」

 そう漏らすと、肺の中をからっぽにするかのような溜息をついた。アルコールと一緒に精気だとかも溶け出しているような風ですらある。多分それにジムは焦った。焦燥した。本人の自覚がないほどに微々たる程度には肺の奥が焼けたのだ。それは必ずしもアルコールのせいばかりではない。

「ヨ」
「ああ」
「ハ」
「なんで」

 青い双眸は空を彷徨うばかりでジムの隻眼には向かない。

「十代なんだろう」
「ヨハン」

 ジムの手はヨハンの頬に触れた。ヨハンのやわいところを眼前に曝されたジムは躊躇を覚えていて、その手付きは妙にあわい。けれども退くこともないままの掌で、少年のまろさの残る頬に触れた。頬に注した赤みが示すそのままに孕んだ熱が皮膚を越えて伝わる。ジムは一度口を開きかけて、しかし口腔の中で舌を彷徨わせてから閉じた。ようやくジムに向けられた青い瞳を見つめて小さく息を漏らした。

「慰めて、やろうか」

 口にしてからジムはぐにゃりと顔を歪めた、かった。けれど決してそれを表に出さないように努めて、結局ただじっとヨハンの視線に堪えた。まるきりひとり相撲だと気づいてしまえはひどくおかしかった。ヨハンはそれを察したか否か、ただ眼を二度三度しばたかせた。それから眼を細めて、口角を緩めた。困らせたと思ったし、泣きそうだとも思った。それは普段のヨハンが見せるような顔ではなかったけれど、しかし酔いにとろけた顔ではなくヨハンのそれだと確信した。

「やさしいなあ、ジム」

 「そうじゃない」とは言えなかった。あとはただ必死に、せめて彼が言ったように優しく触れるばかりである。触れれば案外柔らかい真っ青な髪に手を差し込めば部屋に満ち満ちたアルコール臭さに混じって太陽の匂いがした。







100916