ふわふわと漂うなまどろみに身を任せていたというのに、ああそうだ心地好かったというのにそれは投げ出していた体を押し潰さんばかりに容赦無くのしかかってきた。閉じた視界では落ちてきたのかとさえ思った。もう少しこいつが重かったら俺の中身はまるっと出てしまっていたのではないだろうか。「ぐえっ」とだけしか漏れなかったのはもはや奇跡にさえ思えてしまうほどだった。文句のひとつふたつで足りるかと重たい瞼をのろのろ押し上げて見れば、ごくごく近くでぐしゃりと顔を歪めるそいつに、そんなものはまるっと体の内側に収まってしまった。二度三度と瞬きしてから、咄嗟に止めていた息をゆるゆる吐き出した。

「なんなのおまえ…」

 呆れてそういう風に呟けば高杉はあからさまにびくりと体を震わせて、だからといって離れるわけでもなくむしろ俺の袂をぎゅうぎゅうと握りしめて顔を伏せた。なんだかなあ…。さらさらとした黒髪に落ちる桜のはなびらを払ってやりながら、ぼんやりとその大木を見上げた。広く枝を伸ばす桜はちょうど満開の時期で、ゆるやかに吹く風に乗ってはらはらと落ちるはなびらに埋もれて気分よく昼寝に興じていた(とは言ってもそういった風流心ではなく、単に寝心地が良さそうであったとそういう理由なだけであったが)というのにこのちびすけ。

「……どーしたんだよ」

 めんどくさいと思った。だが放っておいたらその方がめんどくさいのだろうと思った。はなびらなんかひとつもない頭を撫でながらそう思った。

「や」
「や?」

 前触れもなくばっと起き上がった高杉にがらにもなく驚いてしまって、ほとんど弾かれる形になったてのひらが無為にそこいらをさまよった。

「約束、しろよ」

 真っ黒い瞳がまっすぐにこちらを見るのにやや気圧されながらも、決してそういう風には見せずに「なにを」とだけ言った。

「勝手にいなくなったら許さないからな」

 なにを言ってるんだろうこのちびすけ。俺は首を傾げたかったが、しかし縋るような目をする高杉から目を逸らせやしなかった。ほとんど無意識に「わかった…」とぼんやりと呟くと、強張っていた目元をじんわりとほころばせてきゅっと絞られていた口端に隠す気もないだろう笑みをこぼした。そうして無防備に幸せそうな顔でごろりと俺の横に転がり、先程の剣呑さをすっかり落としてしまったそのままに俺の手を握った手はあたたかく、だと言うのに逃がさないと言わんばかりにしっかりと俺の手を握っていた。

「約束だ」
「ああ」
「破ったら針千本だからな」
「わかってるよ」

 ふっと笑えば、高杉は実に満
 古びて、ところどころ染みの目立つ天井からぶらさがる照明を見上げて、そっと息を吐いた。

「ああ…」

 現実、嘘つきはまだ針千本呑んでやいない。そうしてうすっぺらい布団の中から春の訪れを見た。







100612
ユーアーファー
! 約30の嘘