髪に指を通す。乾いたそれがぱらぱらと指先から零れ落ちる。掬いあげたそれがすべて落ちきるのを見止めてから、銀時は再び赤味がかったそれを指先に乗せた。ふっと指を通すその僅かな隙にゆるく指の背で包帯を擦る。擦るというほどに明確でなかったが、確実に撫でてゆくのだった。それは堪え切れない焦燥そのものだった。高杉のたちにまるでそぐわない、ぴしりと、一分の隙もなく、彼のうつろになった左目を覆う真っ白いそれを銀時はいつだってぐしゃぐしゃに乱してしまいたくなる。そして今度は、ぴしりと、一分の隙もなく覆い直してやりたくなる。これはなんの矛盾でもない。ただただ、心底からの嫉妬だった。きれいにふたつ納まっていたその片割れを失って、隠す以上に医療的な意味合いの濃かった包帯を、血みどろになる度に代えるのは銀時の役割であった。誰が言ったでもなく、ただそれはふたりの必然であり、またそれは仲間内でさえも常識となった。必要さえなければ、他の誰かが高杉の包帯に触れることはない。例えばどうしても誰かの手を必要として、誰かがそれに触れたならば銀時は必ずそれを解いて、手ずから彼のうつろを覆い直すのだ。それはふたりの必然であった。

「なんだァ…今日はしつけーな」

 くつくつと目を細めて喉を鳴らす高杉に、そーかなとなんとなくつぶやいてみせて、こぼれた黒髪を掬い上げる。我ながら不毛であった。何度包帯を掠めても、やはりそれはひとつも乱れない。いっそうのこと、セックスに傾れこんでしまえばよいのだろうなと思う。のけぞる高杉の頭を掻き抱いて、掻き乱せばいい。彼がむやみやたらに振り乱すせいで解けるそれを、自分はただ促すだけだ。どうせ、事後には覆い直さねばならないのだし。それでも、やはりぜろまで解いてしまいたい衝動は理屈でない。少し傾いた首筋に食らいつけば、あとは傾れ込んでしまえるだろう。しかし、このまどろむような怠惰な時間も惜しくて惜しくてしようがない。ずっと昔に手放したものと同じ形ではないけれど、それでもただ寄り添い合える空間はたまらなくいとしい。ようするに、わがままなのだ俺は。何度となくそういう風に至って、それでも、どこにも行き場は見当たらないのだ。

「高杉さあ、これ、誰にやらせてんの」

 薄い耳に半分ほど被さる包帯の上からやわい軟骨をなぞると、少し思案するように紫煙と共に「ああ…」と溜息のような声を溢した。

「だいたいは…そうだなァ、万斉かまた子か」
「なんで?」
「別に。大抵どっちかが傍にいるってだけだ」
「ふぅん……」

 ふうっ、と薄いくちびるから紫煙を吐き出すと、小さく落ちる肩に額を乗せた。跳ね除けられてもおかしくはないだろうなと思っていたら案外あっさりと受け入れてくれたらしく、高杉はもう一度紫煙をくゆらせた。そっと息を吸うと、彼の好む煙草の苦い匂いに混じって、ほんのりと甘い香が薫った。昔からこういう嗜好品にはうるさい高杉が好んでいるらしいものだけあって、混じり合う匂いは親しみのない銀時でさえ不快感を覚えなかった。ここで俺の好みの匂いを選んでくれちゃったりしたら、まあかわいげがあるものを、と思いつつも、そもそもそういう方面には疎い銀時に好悪の分別があるわけもなかった。なんとなくの、ないものねだりである。

「高杉さぁ」
「なんだ」
「……眼帯とかにすればいいのに」
「んだそりゃ」
「楽じゃん」

 そう言うと、ほんの少しの間を置いてから高杉の肩がゆるゆると震えた。笑っているらしい。「高杉?」と顔を上げると、細められた右目とばっちり、視線が合った。「いいんだよ、これで」なにやら機嫌よさげに、そう笑った。うすく上げられた口角は少し幼さを孕んでいて、どうにも。なにやら高杉のてのひらの上のような心地になって、銀時は少しばかり唇を尖らせた。

「じゃあさ、毎回俺んとこ来いよ。巻き直したげるから」
「ばァか。てめえが来い」

 くつくつと笑うのに合わせて揺れる頭を眺めて、なんとも苦々しいものが込み上げてきた。やっぱり、なんだかこう、腹が立つものだ。ぐしゃぐしゃと、細い黒髪も真っ白い包帯もなにもてのひらで掻き混ぜた。これはそういう衝動でなく、なんだか遣り切れない、そう、腹の底がむずむずする感じだった。「かわいいなァ、銀時」やけに無邪気に笑うのが、くそ、腹立つ。







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