銀時はなんの前触れもなく覚める。とろとろと降り注ぐ陽光が寝ぼけた瞼に落ちて、きゅうと目をすがめた。もうそろそろ陽が傾き始めるころあいだ。いつの間にやら寝てしまっていたらしい。惰性で頭に手を伸ばそうとして、ずるりと背後のものが崩れ落ちそうになる気配に慌ててその手を抑えた。そこでようやく、銀時は自身に寄りかかる人影に気づいたのだった。寝ぼけていたとはいえ。幼い眉間に薄く皺が刻まれる。拗ねた子供のようでいて、そのじつ、警戒に身を沈める野生のそれに近いそれであった。
 しかしながら、その背後のものが自身の背丈とそう変わらないものであったし、まあ、普段を鑑みてもこんなことをするやつはひとり、しか思いあたらないのだけれど。一糸の例外もなく真っ白い髪は、それだけで十二分に忌避の対象である。それは本能と理性が訴える警戒心だろう。銀時はそっと首を捻って、視界の端に少し赤味がかる黒髪を見止めて、惜しげもなく息をつく。
 あたたかくなってきたとは言え、陽が傾けばそこそこに気温は下がる。銀時にとってはそうたいして支障なく、むしろ少しずつ夜にまで這い寄る暑気にわずらわしさを覚える程だが、しかし高杉はそうもいかないだろう。知り合ってそう経っていないというのに誰に言われずとも察せてしまうほどに高杉は床にいる時間が他人よりも圧倒的に長い。病弱と言えばわかりやすく機嫌を損ねるが、しかしそう言わざるを得ない。丈夫という言葉からあまりに縁遠い少年であった。銀時は溜息をつく。めんどくさいと思う。高杉はつい一週間ほど前にようやくこじらせていた風邪が治ったばかりだったはずだし、それでこいつがまた病気したとしてこれがばれたら今度はこいつの幼馴染が五月蠅い。実に五月蠅い。歳など変わらないくせに小姑か口煩い母親のようなやつなのだ。ああ五月蠅いだろうな。五月蠅いんだろうな。高杉はわかっているのだろうか。きっとわかっているのだろう。そうして、幾重にも重ねられた布団に埋もれて、風邪に掠れた声で「叩き起こしゃよかっただろーが」と笑うんだろう。布団が重たい、といつもよりぶさいくに口角を上げて、布団より重たそうな瞼を少しだけ落とすんだろう。ああ、これは先週のまんまか。でもそういうぶさいくな顔した高杉は結構嫌いじゃないのかもしれない。全部が全部言い訳がましい自分は結構嫌いだった。

「あー……」

 こういうのは多分、ずるいのだろう。銀時はぼんやりと視線を彷徨わせた。見苦しくなく、しかし質素に整えられた庭先で銀時どころか先生の上背も大きく上回る樹が青青とした葉を揺らめかせていた。陽光にきらめくそれが無性にまぶしい。そうだ、もうすぐ夏なのか。なにごとかがざわめくのは太陽がむやみやたらにぎらつく所為に違いない。行き場なく投げ出された指先がやけどしそうだった。







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恋する子銀はすごくかわいい