女の子はかわいい。女の子は好きだ。抱きしめればうっとりと柔らかいし細く艶やかに伸ばされた髪からはふんわり甘い匂いがして俺の脳を溶かす作用をする。かわいらしくねだられれば応えてやりたくなるのは当然の男心というものだ。特に笑顔は、いい。俺はサディストなんかしゃなく、むしろフェミニストであると自負していて、勿論俺は女の子の涙なんて見たくないしましてやそれの原因が俺だなんてのは言語道断だ。それでも、イエスなんて言っちゃえばそれこそ最低だよなあ俺。零しかけたため息は当然、肺の奥でお役御免だ。

「ごめんな」

 ごくごく微かに「いえ」と聞こえた。俺がそういうことにしたかっただけだったかもしれない。嗚咽の波間に消えてしまいそうな声だった。まろい瞳からぼろぼろと涙を零して、メイクに気遣うようなそぶりで繊細な指の背で拭う仕種を見るとその細い肩を抱きしめてやりたくなって、よくない。彼女が特別に庇護欲をそそるたぐいだからというわけではない。例えば見え見えのあざとさで男に擦り寄る女にだって、オーバは同様に手を差し延べたくなってしまうのだ。オーバの優しさ、というか甘さは、人を駄目にする類のそれだった。だからと言ってオーバにだとて境界はあるし、基本的には聡い男だ。俺は触っちゃいけないんだろうくらい、当然解っていた。ただ今回は、本当によくない。ぐにゃりと、眉が歪むのがわかった。俯く彼女には見えていないだろうが、それでもオーバにしては由々しき事態である。オーバは自信の手をきつく握り締めた。彼女の瞳からは絶え間無く涙が落ちる。極々わずかなそこだけ染みのように変わったそこに目を落とす。目の前の彼女がゆっくりと顔を上げるのがわかって、反射的に顔を上げたのが実に、実によくなかった。それでもオーバという男は顔を上げるしかなかったのだが、ともかく。さすがというべきか彼女が見たオーバは神妙そうに自身を見つめる男の姿であった。オーバはもう一度「ごめん」と呟いて顔をぐしゃりと歪めた。当然それは罪悪感ばかりからなどではない。これはよくない。オーバこそ泣きたい心地であった。彼女にはそんなこと思い至るはずもないだろう、勿論二人が実は相思相愛で、いかほどもしようのない事情で彼女の恋心と勇気を無下にするなどということはかけらもない。ただオーバを見つめる彼女の青い瞳が、たゆたゆと水をたたえている、そのことばかりがよくないのだ。









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