ふたりが座ってももうひとり分くらいの余裕のあるソファがある。ふたりはその両端で思い思いにいた。当然ながらふたりの間には誰が来る予定もない奇妙な隙間があったが、だからといってどうということもない。そういう風に、甘たるいことを好むにはふたりの関係は深すぎたが無防備に体を寄せるには余りに浅い。デンジはなんとなくもてあました膝を抱えて、見るともなしにただ平らなテレビ画面を眺めた。某バラエティー番組では女性タレントが罰ゲームと称してなにやらすっぱいらしいお茶を飲んでいた。健康にはいいらしい。ひしゃげられた頬肉は柔らかそう。

「そういやさあ」

 膝に顎を乗せたまま喋ると、下顎の代わりにぐらぐらと頭部が揺れて黄に近い金の髪が頬に落ちた。オーバはそれを横目に見たが、デンジの瞳は揺るぎなく茫洋とテレビ画面に、かはともかくその方向ばかりに向いていて、結局オーバも流れるばかりのバラエティー番組に視線を戻した。

「ちょー胡散臭い占い師みたいなのいてさあ」
「ちょー?」
「ちょー。めっちゃ。めっちゃくちゃ、うっさんくせえの」
「どこに」
「どこだっけ、忘れたけど」
「ふうん」

 もう一度オーバはデンジを見やる。どうという感慨もない風で、じゃあ、まあ、いいのかな、とテーブルのマグカップに手を伸ばした。口に薄く乗せたコーヒーはとっくに冷めていて、一杯だけ入れたシュガーが舌に重苦しく落ちた。「で、っさあ」妙な抑揚でデンジはうっそり笑った。俺はぼやけた視界の端で、デンジの口元がなんとなく歪んだのだけ見えた。

「俺の未来って、不吉で不憫で不穏で不毛で不満で不全で不幸らしいぜ」

 口に薄く乗せたコーヒーはとっくに冷めていて、一杯だけ入れたシュガーが舌に重苦しく落ちた。

「それ、は」
「うん」
「めっちゃくちゃうさんくせえな」
「だろ?」

 デンジは低く笑った。空気の揺れが耳朶に触れる。なんだかなあ、機嫌はよさそうだった。少なくともいいことを言われたようには思わなかったのだが。未だにデンジの、こういう、よくわからないところが多いがもてあますほどではなかった。オーバはスルースキルを使った! 誰にも気づかれずに終わった!

「なあオーバ」
「んだよ」
「未来の俺は不幸なのか?」

 横目でデンジを見やると、デンジは膝の上で組んだ腕を枕にして、こちらを見ていた。にやにや笑ってるデンジを苦々しく見つめて、俺は目を逸らしてマグに口をつけた。空だったそれに、口元を歪めた。

「なあなあ」
「……」
「なあ、おい」
「……」
「おいクソアフロ」
「うっせえうっせえ幸せにしてやるから黙ってろ」
「へえーふうーん」

 にやにやにやにや。
 こんちくしょう。

「オーバ、オーバ」
「……んだよ」
「幸せにしてやるぜ」
「そりゃどうも」

 一杯だけ入れたシュガーが舌に重苦しく落ちた。染み込んだ。だから俺はにやにや笑っているデンジを見て、眉間に皺が寄ったんだ。









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