三成は張り詰めた面を、更に厳しくしかめて廊下を踏み鳴らした。さざめきのように三成の耳朶を震わす悪辣な言がひどく煩わしい。友をおとしめながら、自身らの醜さなどかけらも知らぬ男共を寸分に刻んでやりたく思うのを、拳をきつく握り締めるばかりでやり過ごそうとする。嘲笑交じりの声を振り払うように三成はその足を速めた。
 一時は口にする者も減った大谷への雑言であったが人の猜疑/恐怖/疑心/嫌悪/そういった類いが晴れたわけでは勿論ない。囀る者々を三成が片端から殴り倒していっただけと、そういう。単に恐怖に恐怖を上塗りしたに過ぎないのだ。易々と口にしなくなっただけ、喧しい雀がご機嫌取りをしている、ただそれだけなのだ。なんと脆い防波堤、それ故に小石ひとつでこうも瓦解する。もう一度片端から殴り倒したならばこれも止むであろうが、しかしそうした所でいずれはまたこうなるのだろう。それが別段に徒労だと言うのではない。謂われなく大谷を罵る者などそうあって然るべきなのだ。ただ今回ばかりは大谷にも責がないと言い難い。一層深く、三成は眉間に皺を刻んだ。
 此処のところ大谷殿が第五天魔王を側に置いて離さぬそうな/彼の魔は大谷殿をも魅了したか/化け物と魔王ならば似合いだろうて。三成は歯を鳴らして身の内にどろりと巡るそれを臓腑に満たす。あの友が女にうつつを抜かすなどと、なんたる愚昧!きつく結んだ拳、短く整えられた筈の爪が膚を破った。
 しかし兵どころか三成さえも怪訝に思うほどに、大谷は第五天魔王をいたく気に入っている様子である。大谷はたしかに、疑念を抱かせるに足るだけの立ち居振る舞いをしていた。
 確かにあれは美しい。美しいかたちをしている。あの内に陰を孕めばなるほど魔性ともなろう。おそらくそれは魔王たるそれ以前に、元より脆弱なあの女自身が持つ自衛策だ。庇護されることを前提としたそれはいたく三成の気に障ったが、しかしそれだけである。女の魔が三成のこころに触れることはなかった。そういった具合に三成は女に興味を抱かなかったし、なにより三成には美しい魔を愛でる大谷の無邪気な様こそがうい。気に入ったと云う大谷の感情はおそらく人形遊びに近いそれだ。娯楽的感情にとんと興味のない三成はよくわからぬが、大谷がそういうならばとあの女は彼の好きにさせたし、以降三成が強いて女を気に留めることもなかったのだが、当の大谷がともすれば日がな一日傍に置くのだからいかに三成と言え存在を意識せざるを得ない。







101118/日記より
途中放棄。いつかリメイクするかもしれない