万国砂糖品評会【02】
「あ、のっ、なまえさん!」
「ん?」
敦の手には何かのチラシがあった。手渡されたそれを見ると、『大流行!抹茶スイーツフェア』と書いてあった。
「抹茶か…、」
「あ、ええと、なまえさん、抹茶は嫌いでしたか…!?」
吟味するようななまえの声音に、敦が慌てる。
「どうしたんだ、これは」
「先程通りで配ってたんです。デパートの催事場でフェアをやるらしくて。なまえさん、甘味がお好きですし、良かったら、と思って」
「…フェアは明日からか、」
よし、となまえは拳にぐっと力を入れる。
「敦くん。誘ってくれてありがとう。早速明日行ってみようか」
「……、……はい?」
***
フェアはさすがの人混みだった。抹茶ソフトクリーム、抹茶ケーキ、抹茶パフェ、抹茶チョコレート、大福、おまんじゅう。もはや何でも有りの有り様だったが、
「ふむ、この抹茶とあんこのどら焼き…なかなか、」
「抹茶ソフトクリームは外れがないな、うん」
「抹茶ケーキ、これもなかなか甘さ控えめで味わい深い」
なまえはするすると人混みの合間を縫いながら、あちらこちらの抹茶スイーツを味わっていた。敦も最初は着いていってはいたものの、人混みに押されては揉まれ、揉まれては弾かれで息苦しくなり、熱気の渦から離れたベンチでなまえの帰りを待っていた。
「なまえさん、すごいなあ…」
女性のこういう時の行動力は、一種の異能にも似た迫力と熱気がある。(たまに殺気もある)
そんな賑やかな一角から、真っ黒のワンピースを着た女性が出てきた。両手には紙袋が幾重にもぶらさがっていた。
「お、お帰りなさいなまえさん、だ、大丈夫ですか?!」
「少し張り切りすぎた…、これは探偵社にお土産だよ」
「僕も持ちますね、なまえさん」
「ああ、そうしてくれると助かる。ありがとう」
並んで歩く帰り道。なまえの横顔はこの上なく上機嫌だった。
「ご機嫌ですね、なまえさん、」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた!敦くん!」
寄り道だ!となまえに連れてこられたのは、公園だった。大きめのベンチに並んで座る。
「わたしの番で売り切れてしまったやつなんだ。いや、買えて良かった」
嬉しそうに包みを開ける。ここで食べるつもりらしい。
「なまえさん、それ、探偵社のお土産なんじゃないんですか…!?」
「ん?お土産は別にあるよ。これはもともと、フェアを教えてくれて、さらにわたしに付き合ってくれたお礼に敦くんにあげようと思っていたからね」
どうぞ、と差し出されたそれは、抹茶プリン。カラメルソースの代わりにあんこの層があり、落ち着いた緑色のそのプリンには、
「わあ、可愛いですね!」
チョコペンでにっこり笑った顔が描かれていた。幸せを呼ぶプリン、らしい。
「このプリンは二つしか買えなかったから、わたしと敦くんとの秘密だ」
「秘密、ですか」
「うん、秘密だ」
お互いに顔を見合わせて、どちらからともなく笑ってしまう。
「太宰さんにはバレちゃいますね」
「何、別の抹茶スイーツはたくさんあるから気にしなくとも大丈夫だ」
夕日の差す公園にふたり、笑い合う。
抹茶プリンは少しほろ苦くて、甘くて、美味しかった。
【万国砂糖品評会:抹茶プリン】
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