薄紅色
いい天気、だった。
風も穏やかに、日差しも柔らかい。
身支度を整えていたなまえ。
王様がそれを手伝う、いつもの朝の光景。
と、扉がノックされた。
王様がするすると近づき、ドアを少し開ける。
「やあ!王様、お早う。
なまえは起きているかな?」
聞き覚えのある声に、王様は躊躇いなくドアを開ける。
「王様!?」
「ありがとう、王様。
…お早う、なまえ。身支度中にすまないね」
「全く、太宰くんはデリカシーというものが少し欠如してませんかね?
…すみません、なまえさん、王様」
王様に招き入れられてやって来たのは、
太宰と、坂口。
なまえの目がまるくなる。
「…安吾さん、太宰さん?」
「なまえ!今日は暇かな?」
「…これからちょっと、出かけよう、かと」
「なまえさん、用事ですか」
「いや、特にこれといった用は無いんです。
天気がいいから、ちょっと外に出たくなって」
「それじゃあ、別段目的は無いのだね?
私たちと一緒に出かける、というのはどうだい?」
「太宰くん、強引すぎますよ…」
「…どこへ、行くんですか」
なまえの返事に、太宰はにこりと微笑んだ。
「お花見、だよ!」
***
その桜の木の下には、織田作がいた。
「なまえも来たのか」
「強引に誘われてな。
今日は天気もいいし、お花見日和だな」
ビニールシートに腰をかける。
見上げたなまえの視界に、
青い空と、淡い色の桜が映る。
はらはらと舞う花びらに、目を細める。
「…、綺麗だな」
柔らかく微笑んだなまえに、
「なまえの方が綺麗だよ…」
「…何を言ってるんですか太宰くん。
はい、なまえさん、お茶をどうぞ」
「ありがとう、安吾さん」
坂口から、ほんのりと湯気の出ている緑茶を渡される。
織田作の方から、桜餅が渡される。
桜餅と緑茶。
しげしげ、となまえはそれを見ている。
「…嫌いか?」
「いや。花見と聞いてきたが、
お酒とかは無いのか?」
「もちろん、お酒もあるよ。
でも、なまえは呑まないだろう?
なら、お茶とお菓子の方が、
なまえはいいだろうと思ってね」
「…なまえが来ると解っていたのか、太宰」
「もちろんだとも。
なまえにも、この綺麗な桜を見てもらいたかったしね」
「太宰さん…、ありがとう」
「うんうん、もっと感謝してくれてもいいんだよ?」
「…調子に乗るのはやめなさい、太宰くん」
小さく微笑んで。
なまえは桜餅と、満開の桜を見た。
綺麗だ、と。
改めてなまえは、嬉しそうに桜を眺めていた。
***
「…なまえさん、嫌なら嫌だと言うんですよ」
「同感だ」
「まあ、…うん、仕方ない」
なまえの膝に、酔っぱらって潰れた太宰が寝転がっていた。
なまえと坂口は苦笑いで、太宰を見ている。
「太宰さんはいつも忙しそうだし、
危険なこともたくさんしている。
…少しでも休まるのなら、わたしの膝くらいはお安いご用だ」
「ほだされてはいけませんよ、なまえさん。
太宰くんなら、わざと酔ったふりをして、なまえさんの膝枕にあずかろうと画策していてもおかしくありませんからね」
「安吾さんは太宰さんをよく見てますね。
わたしも同感です」
「なまえ、解っているなら…」
「織田作、大丈夫だ。
…わざとでもいいんだ。
誰かが、少しでも、わたしを必要としてくれているなら、わたしはそれに応えたいんだ。
生きていてもいいんだと、
例え嘘でも、わたしがいいんだと、
そう言ってもらえていることが、
わたしはとても、嬉しいんだ」
「…なまえ、」
ぽん、と。
織田作の手が、なまえの頭に置かれた。
「嘘でも、なんて言うんじゃない。
お前を疎ましいと思ったことは無い」
「そうですよ、なまえさん。
そんな風に自分を卑下するのはやめてください。
なまえさんが不要だなんて思っていたら、
今日、こうしてなまえさんを誘ったりはしないでしょう?」
「織田作、…安吾さん…」
じわりとなまえの視界が潤む。
「なまえ、」
起きたのか、最初から起きていたのか。
太宰が、なまえの顔を見上げている。
「なまえの過去がどんなものであれ、
私たちはなまえを嫌ったりはしないよ。
なまえはもっと、自分に自信を持っていい。
なまえは幸せになることに貪欲になっていい。
私たちは、なまえを応援するよ」
「太宰、さん…。
ありがとう、ありがとう…」
思いがけず、涙がこぼれる。
柔らかく差し込む日差し。
桜の美しい日、だった。
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ツイッター診断メーカーより。
幸せごはんは、桜餅と緑茶。
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