微睡は水面深く。 | ナノ
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はじまりの一歩


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唐突だけれど。

わたし、苗字 名前は10年前の記憶が殆ど無い。
大きな火事に巻き込まれたことは、なんとなく覚えている。
(だからちょっと、火は苦手です)

あとは、自分の名前。
わたしが覚えていたのは、それだけだった。

気がついたら教会に居た。
言峰綺礼、と名乗ったその人は、

とても、こわかった。


(いつか殺される)


子供心ながらにそう思って、
ひそりと生きていきたかった。
けれど、ほかに身寄りは居ない。
家族も(恐らく)みんな、死んだ。

だからもう、この人と一緒に居るしか、無いんだ。


そうやって諦めて共に生きること10年。
徐々に、なんとなく、綺礼という人物を理解しよう、
そう努力はした。
けれどあの男の底は全く見えなかった。

10歳になったとき、唐突に言われた。


「名前、お前には魔術回路がある」

さっぱり解らなかった。


神父曰く、

わたしには大きな魔術回路がある。
けれど、わたし自身にはそれは扱えない。
しかもその回路は壊れていた。

壊れた回路から、魔力は絶えず生成されている。
その魔力の貯蔵量は並大抵じゃない。
でもこのままだと魔力が溢れて暴走して、
お前自身が自らの魔力に自滅してしまう。


…らしく、その夜から違う部屋を宛がわれた。
今までの部屋と比べたら少しだけ狭かった。
そこはもう一つ小部屋があった。

荷物は後で持ってくる、といわれ、
まずその小部屋へ入るよう促された。



そこには「遅かったではないか」と仏頂面の男性がひとり。
金糸のような髪に、燃えるような深紅の瞳。
月の光がささやかに差し込む部屋が、
いつもより少し明るい気がした。

そのひとに言われ、わたしは部屋へ踏み入れた。
床には、何か模様が描かれていた。

「綺礼お手製の陣、だ。これでお前の魔力を吸収する」
「…吸収したものは、どこへ?」
「我が貰う、一滴も残さずな」

もっと手っ取り早い方法があろうに、綺礼の奴め。
と彼は忌々しげに呟いていた。方法って何だろう。
神父は教えてくれるんだろうか。

「血を、それにあてがうがいい」
「…、」

まるであつらえたかのように、そばの小さなテーブルにナイフ。

拒否権は、無いんだと…わたしは良く知っていた。
指を少しだけ、ぷつり。




…その後の記憶は、無い。
気がついたら翌日のお昼になっていて、
あの金髪の人は居なくなっていて。
わたしは魔方陣の上に倒れていて(ブランケットをかけてくれたのは、誰?)

神父が起こしに来て。
「まあ、まずまずだな」


そう言った。
わたしは、あのひとの役に立てたんだろうか。

すこしだけだるさの残る身体を、頑張って起こして。
うん、だるいけど、頭は逆にすっきりしている。

いつも、寝起きで襲ってくる鈍い頭痛は無かった。




こうしてわたしは、自分の中の魔力を、
週に1回、魔方陣からあの金髪の人へ流すようになった。


あの金髪の人の名前を教えてもらうのは、まだ後の話。




そして、わたしは、


神父のことが、恐かった。

とても恐かった。

けれど、嫌いじゃなかった。


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