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【一目惚れ】
商店街の花屋さん。そこには綺麗な男の人がいると有名だった。
「ありがとうございます!」
「こっちこそありがとな」
ランサーさんから花束を受け取り笑うと、彼もまた明るい笑顔を返してくれる。花屋の青い外国人は想像していたよりもずっと親しみやすく、優しく、もっとかっこよかった。
結婚する姉に渡す花束を抱え、もう一度頭を下げるとランサーさんは私を引き止めた。「ああ、それからこれ」差し出されたのは1本の赤バラで。
「嬢ちゃんいい女だからな。プレゼント」
屈託のない笑顔に胸が高鳴る。ドキドキ鳴る胸を押さえて、バラを受け取った。「ありがとう……ございます」
貰う際にランサーさんの手に触れた指先が、ひどく熱い。
【告白】
「ランサーさん、あの……」
ちょうどバイト終わりだったランサーさんと一緒になって商店街を抜け、公園の脇を通り、大橋の前で立ち止まる。家は新都だという彼とはここでお別れだ。
だから、今ここで言うしかない。
「ランサーさん、私……!」
最後の覚悟を決めて言葉を紡ごうとした唇に、ランサーさんの人差し指が当てられる。「それはオレから言わせてくれや」え?と思う間も無く彼が3本のバラをどこかともなく取り出した。
「好きだ、名前。付き合ってくれ」
はい、と頷き花束を受け取る。
たったそれだけの行為がまるで誓いのようで。
【永遠の愛】【年老いても共に】
仕事から帰って来るとダイニングテーブルの上に大量のバラ刺さった花瓶が置いてあった。
驚きと呆れと照れ臭さと愛おしさを混ぜこぜにした感情に口元を緩ませつつ、イスに腰掛ける。
「2、4、6、8、10……」
特注したのだろう赤いバラは数えるのも大変だ。前回の続きだと考えれば一体何本なのか簡単に分かるけれど、それじゃあ寂しい。1本1本大切に数える、それが学生の時からの習慣になっていた。
「97、98、99……!99本も、ランサーさんってば」
「これで100だな」
「ひゃっ!?」
突然の声と視界に入ってきた1本のバラに驚いて声を上げる。慌てて振り向けばいたずらっ子のような笑みをするランサーさんがいて。
「もう、驚かせないでくださいよ!」
「相変わらずいい反応するなァ」
「私で遊ぶのやめてくださいってば」
おうおう、と私の言葉を流してランサーさんは手に持った1本を花瓶に刺す。……これで100本。100本のバラの意味は──
「……私がおばあちゃんになるまで付き合ってもらいますからね」
お安い御用だ、と。ランサーさんは私にキスをした。
【何度生まれ変わってもまた貴方を愛します】
「お嬢ちゃん」
喧騒の中で私を呼ぶ声が聞こえた。お嬢ちゃん。名前ではない。名前を呼ばれたわけではないけれど、確かにその声は私を求めていた。運命にも近い、確信だった。
振り返る。クリスマス間近のため、普段は落ち着いた空気の流れるマウント深山も今日は人が多い。けれど私は人混みの中からその人を簡単に見つけることができた。
青い髪、赤い目。現実離れした容姿とは相容れない、けれども不思議なくらい似合っているカラフルなエプロンを身につけ、花屋の店先に立った男性が、手招きをしている。
私はふらふらと、引き寄せられるように彼へ歩み寄った。
「ランサーさん」
知るはずのない名前が唇から溢れる。
私はいつの間にか、酷く穏やかな笑みを浮かべていた。
「嬢ちゃんいい女だな。これ、プレゼント」
ランサーさんが、背中に隠していた花束を差し出してくる。
赤いバラ。
前回の続きならこれは──999本なんだろう。
「ランサーさん。私も、」
花束を胸に抱き、彼を見つめる。
「貴方を、愛しています」
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深淵/奏様より。
100,000hit企画にリクエストさせていただきました。
とても甘くて素晴らしい…。
奏様、10万hitおめでとうございます!
そしてリクエストにこたえてくださり、ありがとうございました。