低回顧望
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『はあい、名前』
夢だ、とはっきりわかった。
その声に、名前は聞き覚えがあったからだ。
子供のように高い、無邪気な。
それでいて、狂気が感じられる声。
「聖杯…」
『当たりです。覚えていてくれて嬉しいな。
最近、名前が構ってくれなくて寂しいです』
「…なにか、ご用ですか」
『ディルムッド・オディナ』
その名前に、名前の肌がぞわりと粟立った。
「…ディルムッドさんが、何なんですか…」
『うふふ、さて、どうなんでしょうね?
あなたは、ずいぶん彼を気に入っている』
「…、」
『ぼくはね、名前。ぼくは君が大好きなの。
君が大好きだから、喜ばせたいし…、』
こまらせたいの。
その言葉で、名前の意識は急に覚醒した。
「…、何なんですか…、もう」
頭痛と共に、気だるい体を起こす。
衛宮邸の布団はふかふかで、しかも程よい重たさ。
どこで買ったのか、後で聞いてみよう。
なんて思いながら、違和感に気づく。
ベッドの右側が、不自然に沈んでいる。
セミダブルの大きめのベッド。
聖杯の言葉が甦る。
まさか。
まさか。
視線を恐る恐る、そちらへ向けている。
沈んだベッドに、彼は眠っていた。
烏の濡れた羽のような、真っ黒な、ゆるくウェーブのかかった髪の毛。
「…、ん…」
寝返りをうつ、その、左の目尻には泣き黒子。
「…、ディルムッド、さん…?」
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さあ、ひと波乱?