今後の2人にご期待ください




「なまえちゃん」
「げっ」

 非番の前日、行きつけである酒処のカウンター。店主のおっちゃんと世間話に花を咲かせていた時。知ってる霊圧が近づいてくるのに気付かぬふりをしていた。

「おっちゃん、いつもの」
「はいよっ」

 今日も暑かったなァと自然に、それはもう自然にわたしの隣の席へ腰掛けたこの男。平子真子はわたしの上司である。

「なんでいつも隣座るんですか」
「ええやん、俺となまえちゃんの仲やし」
「どんな仲ですか、全くもう」

 わたしはこの人が苦手だ。飄々としているくせに掴みどころがなくて、それでいて相手の懐にするりと入り、全てを見透かしているのではないかと思うほどドキリとすることを言ってくる。

「それにしても、げって酷いやん」
「心の声が漏れてしまいました、すみません」
「なんでそんなに余所余所しいん?もっと仲良う過ごそうとおもてんけど」

 隊長の頼んだ水割りが運ばれてきて、自然にグラスをカチンと合わせる。始めの頃はたどたどしかったそれも、今じゃお手のモンなのだ。それくらい、この人とは2人で肩を並べお酒を飲むことが多かった。べつに合わせているわけではなかったのだけど、わたしがいたら隊長が、隊長がいたらわたしが、面白いくらい同じタイミングで同じ店を選んでいた。そりゃ、げってなるでしょうよ。

「なまえちゃんはアレやな、ツンデレ」
「え、なんですか急に」
「顔に書いてあるで、嬉しいって」

 そんな馬鹿な。顔をゴシゴシと擦ると、クククと意地悪そうに笑う隊長。なんなんだ。

「仕事後まで、上司とこうして顔を合わせなきゃいけないなんて」
「ええやん?願ったり叶ったりやろ?」
「どこがですか。わたしは1人でしっぽりやるのが好きなんです」
「おっさんかいな」

 半分くらいまで減ったグラスを一気に飲み干し、熱燗を頼む。明日は非番だから、とことん飲むと決めていたのだ。自分の限度は分かっているつもり。だから酔っ払って記憶がないとか、次の日二日酔いで仕事どころではないとか、そういうことは一切ない。

「ハイペースやなァ、俺心配なんやけど」
「平気です。隊長の前で失態は晒しませんので」
「なまえちゃんのそういうところ、モテへんぞ」
「大きなお世話ですぅ」

 周りからはよく、堅すぎるからリラックスしろと言われる。良くいえば真面目、悪くいえばつまらない、そういうこと。性格なんだから仕方ないじゃないか。

「明日非番やろ?」
「そうですけど……」
「俺もやねん」
「ソウデスカ」
「奇遇やなァ」
「ソウデスネ」

 ニヤニヤという言葉がお似合いな表情をしている目の前の男と、きっとげっそりしているであろう横に座るわたしの顔を見合わせた店主は、「お2人は本当に仲が良いですね」と言い放った。

「そうやろおっちゃん、俺ら仲ええねん」
「ちょ、おじさん、やめてください、ただの上司と部下です」
「それにしてはみょうじさん、隊長殿がいらっしゃるまでソワソワと出入口を気にしているようでしたが」
「……そうなん?」

 鳩が豆鉄砲をくらった顔、というのだろうか。隊長はさっきまでの悪戯なニヤニヤした表情とは一変、顔をほんの少し緩め心なしか頬を紅く染めている。わたしはというと、身体中の血液が全て顔に向かっているようなそんな気分で、カッと全身が熱くなっているのが分かる。おじさん、とんでもない爆弾を投下してくれたな。

「おっと、醤油が切れてしまっているな、ほんの少し留守にしますので、店番をお願いしますね」
「ちょ、おじっ……さん、」

 いらぬ気遣いだ。むしろ今この状態でこの人と2人きりなんて地獄だ。そんなわたしに気づかないというふうに、おじさんは裏口から出ていってしまった。しん、となんとも気まずい空気が店内に立ち込める。わたしはというと、恥ずかしくて隊長の方を見れずにいる。

「なぁ」

 沈黙を破ったのは隊長だった。

「なんでしょうか」

 隊長がいる方とは反対側に視線を泳がせ口早に返事をする。

「俺が来るの待ってたん?」
「……待って、ません……」
「なぁ、こっち見てや」
「嫌です」
「なぁって」

 肩を捕まれ、グイッと身体を回されたわたしは隊長と向き合うかたちになった。

「なまえちゃん」
「なんですか」
「俺な、可愛い女の子大好きやねん」
「そうですか」
「特に真面目で素直な女の子は特段な」
「……」
「明日、1日付き合ってくれへん?」
「……」
「もう少しで俺のものになりそうな女の子おるねん。その子めちゃくちゃ真面目でな、どうすればいいか相談させてーな」
「……い、意地悪……!」

 明日の予定は自室の掃除のみ。早起きして終わらせよう。そしたらすぐにこの人のところへ向かって、そして……。







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