それは秘密の恋でした







 持ち帰ってきた仕事をやっと終わらせて、時計を見ると午前3時。なんてことだ。と言っても明日は(正確には今日だけど、)休みなので思う存分寝ていることが出来る。目覚ましはセットせず、目覚めたら起きて休みを楽しもうなんてぼんやりと考えていた。ふと、チカチカと光る携帯に気付きメールを確認する。3時間前に来ていたそれは「明日駅前に9時」と絵文字も顔文字も何もない素っ気ないものだった。そしてハッとする。メールの送り主、平子真子と会う約束をしていたことを仕事に没頭するあまりこの瞬間まで忘れていた。確か夕飯を食べていたあたりまでは心の隅にこの約束がチラついていたはず。やってしまった、早く布団に入らなくては。目覚ましを7時にセットし、わたしは眠りについたのだった。

「セーフ!」
「どアホ、アウトじゃボケ」

 待ち合わせの駅前へは、30分遅れて到着。本当にごめん、真子。しかしまぁ、今日も今日とて、相変わらずお洒落に着飾っている真子はやっぱりカッコよくて、口元が緩みそうになる。

「ったく、どうしようもないのォ」
「ほんとごめんね、仕事に没頭しすぎた」

 わたしはしがない雑誌編集者だ。今は旅行誌を担当している。残業に次ぐ残業&休日出勤で、ここ最近は目が回る忙しさだった。家に帰れないなんてこともザラで、今回の休みは、やっと大きな仕事を終えた後の、数ヶ月ぶりの連休なのだ。(それでも次の仕事持ち帰ってくるなんて、なんて要領悪いのわたし)

「今日は何処へ行こうか?」
「俺行きたい古着屋とレコード屋あんねんけど、ええか?」
「もちろん、じゃぁその後はわたしの買い物付き合ってね」

 当たり前やろ、と口角をくいっと上げわたしを見た真子はスタスタと目的の店へ向かうのだった。わたしはその背中をじっと見つめながら歩くのが好きだ。







「やっぱ、お前とは趣味合うわァ、このパンツとシャツの好みとか俺らドンピシャやもんな」
「それめちゃめちゃ可愛いもん!真子しか着こなせないわ」
「そりゃなんてったってイケメン真子くんやしなァ」

 一通り買い物を済ませて、近くにあったカフェに入った。本日のオススメランチを頼む。店員さんが驚くほどのハモリ具合で「オススメランチカレーセットで」なんて注文して、顔を見合わせクククと笑う。わたしたちは大学からの仲だけれど、何から何までツボが同じだった。食べ物、飲み物、服の趣味、音楽の趣味、取っていた講義……相性診断もばっちり100パーセントで周りからは気味悪がられた。(ひどい)

「わたしらホントに考えてること同じよね」
「ほんまやなァ、不思議なもんやで」
「……最近、どうですか」
「ん?あぁ、お陰さんで仲良うやっとるでー」

 わたしたちは本当に相性が良くて、好みも同じで、考えてることだって大体同じ。でも一つだけ違うところがあった。決定的に違う一つだ。

「なまえほど気の合う友だちはなかなかおらんからなァ」
「そうだねぇ」
「アイツとは微妙に考え方とか違うねん」
「そっか」
「……まァ、だから付きおうとるんかもしれんけど」

 真子はわたしを「気の合う友だち」としてしか見ていない。わたしは彼を、それはもうずっと前から好きなのだ。「気の合う友だち」だから、こうして休日に買い物へ出かける。「気の合う友だち」だから恋人の話をする。彼は優しい。優しい真子にいつもいつまでも会っていたい。わたしの気持ちを知った真子が、わたしへどんな感情を抱くのか怖い。否定されたら、拒否されたら、どうせ叶わない恋なら、それならいっそ、ずっと「気の合う友だち」でいいじゃないか、とわたしはそう思うのだ。






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