姫子にはひとつ、人には言えない秘密があった。
人の性嗜好は十人十色。
フェチや性癖も人それぞれにある。
彼女の性癖は“ノーマル”とは言い難いものだったが、姫子はそれから得られる快感に抜け出せずにいた。

きっかけは何だったか…野外で性行為をするカップルを目撃したのが、始まりだったかも知れない。
自分に置き換えて妄想した時、今までにないほどひどく興奮してしまった。
初めは妄想だけで満たされていた。
それも次第に物足りなくなり、…今では野外オナニーをするまでになっている。

夜の更けた頃合いに、ひと気のない場所にひっそりと車を停める。
その暗い車中で姫子は秘めやかに一人遊びに興じた。
初めの頃はまだ躊躇いもあって、そっと指を潜り込ませて楽しんでいた。
それも回数を重ねていくうちに大胆になっていき、今ではディルドやバイブを持ち込んで遊んでいる。
姫子の楽しい秘密の一人遊び。


――それが壊されたのは、ある夜のことだった。

たびたび利用している公園の駐車場で、いつものように姫子は車中でバイブを使って自慰をしていた。
少しだけ背凭れを倒した運転席に座り、両足を大きくM字に開き、ショーツを脱ぎさって、恥部にバイブを差し入れて…。
その淫らな女の姿を、たまたま通りがかった男に見られてしまったのだ。

コン、コン、コン

オナニーに夢中になっていた姫子は、突然、窓ガラスをノックされ、「えっ?」と目を見開いた。
反射的に顔を外に向ければ、暗い夜の中、背中を丸めて覗き込んでくる男と目がう。
……血の気が引く思いをした。
火照っていた体が一瞬にして冷や汗をまとい、強張り、青褪める。

(あ、あ…、うそ、うそっ、み…見られ…見られちゃった…)

蕩けていた表情を絶望に歪ませた姫子を見て、場違いなほど明るく、男が笑いかけてくる。
そして…ガチャリ、とドアノブが開く音を立てた。


「っ…―――…!!」


ああ、なんて事!
よりにもよって、砦である筈の鍵をかけ忘れていたらしい。
ゆっくりとドアが開かれる。
夜の冷たい空気が入り込んできて、未知の恐怖を前に、姫子はカタカタと震えた。


「ずいぶん楽しそうな遊びしてるじゃん。なぁ、俺も混ぜてくれよ」

「…あ…っあ…、ひ…っ」

「一人で遊ぶよりも二人で遊んだ方が楽しいぜ…。ほら、あんたの変態オナニー、手伝ってやるよ」


面白い玩具を見つけた子供のような、そんな楽しげな口調で男は体を車中に押し込んできた。
運転席に座る姫子の肩を抱いて、身動きを取れなくする。
困惑しきって状況を飲み込めていない女を無抵抗にするのは簡単だ。
開けっぱなしのドアの向こうは街灯があるとはいえ暗く、静寂に包まれたいつも通りの夜の公園がある。

車の中で産まれた非日常。
姫子は突然降りかかったあまりのアクシデントに、思考も真っ白になり、悲鳴もあげられない。

そんな青白い姫子の頬に唇を寄せて、肌をなぞるように男はそのまま耳朶に滑らせる。
ピクッ、と姫子の肩が跳ねる。

(…まって…待って…ッ)

耳たぶがかさついた唇に挟まれ、チュゥッと音をたてて吸い付かれる。
柔らかい舌が耳殻を這っていった。
男の濡れた舌が耳孔へと差し込まれ、卑猥な水音をたてて姫子の脳を揺さぶった。

(やだ…、うそ、…わたし…っ)

ビクビクと女の体が官能に震える。
狼狽える心とは裏腹に、唇からこぼれるのは上擦った淫らな吐息。
姫子から強い抵抗がないことを確信した男は、抜けかけていたバイブを手に持つと膣内へいれてしまった。


「あぁ…ッ! ぁ…あ…あぁ…っ」

「すげぇ…めちゃくちゃ濡れてるじゃん。…ああ、ローション使ってる?」


助手席に転がっているローションのボトルを見つけて、男は姫子を“好きもの”の変態だと含み笑った。


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