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姫子はそこそこの規模を持つ貿易会社の秘書課で働いている。
主に社長の近辺を受け持っており、自社での仕事の他にも付き添いとして現場や他社へ赴くこともあった。
いわゆる、社長付きの秘書だ。
スケジュール管理、調整、取り次ぎ、手配、書類整理、茶請けなど全てを執り行っている。
「本日は弊社にお越し下さりありがとうございました。お見送りはこちらの者がいたします、お気をつけてお帰りください」
取引先の重鎮を応接室近くのエレベーターまで案内し、秘書課の者へと引き継いで彼を見送らせた。
エレベーターが閉まる音が聞こえるまで下げていた頭を上げ、姫子は顔を暗くして表情を曇らせた。
(…どうしよう…、社長のあの反応。きっと、これから…――)
つい溜め息が出てしまう。
戻りたくない…。
だがそうもいかず、姫子は不安になりながら再び応接室へと戻ってきた。
案の定、社長はそのままソファに座って姫子が来るのを待っていた。
「姫子」
「…はい」
「鍵をかけて、こちらに来なさい」
苗字ではなく名前で呼ばれ、姫子は一瞬躊躇ったあと、社長の言葉に従った。
応接室の内鍵をかけ、恐る恐る傍へと近付いた。
勤務中に“名前”で呼ばれることの意味を、姫子は察していた。
腰をグッと引き寄せられ、倒れ込むように社長の肥った身体へもたれかかってしまう。
「あの男、気にくわん。俺の姫子をいやらしい目で見ていた」
「…そんなことは…」
「いいや、……相変わらず男を誘うのが上手い女だな…」
パンッ!
まるで小さな子供に仕置きをするように、社長は姫子の尻を掌で打った。
ストイックな黒地のタイトスカートごと、むに、むに、と手遊びのように尻を揉まれる。
姫子は唇を引き結んで、社長の肩口に顔を伏せて震えた。
(触るだけ、触るだけで終わって…っ)
姫子の願いは叶えられなかった。
スカートをまくり上げるように、裾から太い指が入り込んでくる。
「っ、しゃ、社長…っ! こんなところでいけません…! そ、それにまだ仕事中です…っ」
「大事な商談があると言ってある。誰も近寄らん。いいから…お前はこのスケベな身体で、俺のご機嫌取りでもしろ」
うなじに手を差し込まれて無理やり顔を上向きにされる。
すぐさま喰らうように唇を合わせられ、姫子はぎゅっと目蓋を閉じた。
分厚い煙草の匂いのする舌が潜り込んできて、柔らかな女の口内をまさぐり、好き勝手に暴れる。
ぴちゃっ、ちゅく…ちゅく…
チュ、…ぢゅる…っ、チュプ……
諦めるように華奢な体から力が抜かれ、姫子は従順に唇を開いて男を招き、舌を差し出した。
お互いの唾液が混ざりあい、溢れそうになるそれを何度もすすって嚥下する。
「っんんぅ……、ふ、ん……チュる…っ、くチュッ、んぁ…は…っ、ん、んっ」
「……良い子だな姫子…、そのまま大人しく、俺に体をひらけ」
「っはぁ、はぁっ、……はい…」
こうなっては、おさまらない。
深い恥辱と落胆が胸中を襲い、姫子は体を明け渡した。
(こんなこと慣れたくなんてないのに…。逃げられないのなら、慣れなきゃ、ダメなのかな…)
人事課から秘書課へ異動となり、社長付きが産休に入ったので、その役職を引き継いだその日。
姫子は権力という立場を振りかざしたこの男に犯された。
体をいいように暴かれ、“男”を教え込まれ、躾られ、…たった一晩でそのまま愛人にされてしまった。
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