長谷川姫子という人間は、生まれながらにして恵まれた容姿の持ち主だ。

長い睫毛に縁取られている丸い瞳に、厚みのあるふっくらとした唇。
その唇からこぼれる耳馴染みの良い柔らかな声。
毛先にウェーブの癖がある亜麻色の髪が、風をはらんでふわりと揺れる。
桜貝のような爪。細い指。白い肌。
背筋はピンとして姿勢も良く、歩く姿はまさに百合の花のようだった。

愛らしい容姿をしていた姫子は、どこへいくにも人の目を引いた。

清純派マドンナとして、幼少期から現在に至るまで、男たちから人気を集めていたのは言うまでもない。
その反面、同性から反感を持たれる事は避けられず、多少のトラブルはいつの年頃にもついて回った。
それでも、他者に対して面倒見もよく、親身になって相談にのる姫子は、慕われる事の方が多い。

高嶺の花とは彼女のこと。
それでも美しいものに人と言う生き物は惹かれてしまうのだ。
それは大学を出て社会人となり、すっかり働く大人の女性になってからも変わらなかった。


□ ■ □ ■ □


「――前から気になってたんですけど、姫子先輩って彼氏いるんですか?」

「ええ…? 学生時代や働き始めの頃には居たけど、今はいないよ。仕事にかかりっきりで…何だかんだで出会いもないしね」

「えー、勿体ない! 先輩なら玉の輿とか狙えますよ! 金持ちのスパダリ!」

「ふふっ、やだ、ただの寂しい独り身をからかわないでよ」


まだ学生気分の抜けない新卒の後輩が面白おかしく振ってくる話題を、姫子は当たり障りなく笑って流した。
周りが自分をどう見ているかは分かっているつもりだが、社会に出てしまえば恋愛はそう簡単には始まらない。
モーションをかけてくる社員は、確かに入社時からいる。
だが、職場恋愛は別れたときが気まずいからどうしたって避けるし、友人づても同じ理由で紹介は遠慮している。

それに、彼女には秘密があった。

異性に興味がないわけではない。
清純と言われ続けてきた彼女だが、衆人にさらされている印象とは裏腹に…。

――性に対して大きな関心があった。

思春期の頃から赤裸々なセックスの体験談を聞いたり読んだりするのが好きだった。
ベッドシーンのあるティーンズコミックよりも、男性向けの下品な漫画や、いやらしい映像を観るのが好きだった。
アダルト系サイトの掲示板やチャットでは、男の人とよくエッチな話をしている。
文字の遣り取りとしてだが、イメージプレイも好んでしていた。
自慰行為も頻繁にしてしまっている。
一人暮らしを始めてからは、大人の玩具やAVをいくつも買うようになった。
非現実的な妄想に耽って自慰を楽しむこともしばしばあった。

(…もしかして、私、普通の子より性欲強いなのかも…)

今まで何人かと交際してきたし、セックスだって経験している。
だが、いつだって物足りなさを感じていた。
姫子のいかにも清純そうな見た目のせいか、付き合ってきた彼らは穏やかで紳士的な触れ合いを好むタイプばかりだった。

本当は激しいセックスがしたかった。
アブノーマルな行為にも興味があった。
AVやアダルト漫画で見るような、イヤらしくて淫らなセックスがしたい。
現実では与えられない刺激を、姫子はネットの世界で満たしていた。


□ ■ □ ■ □


欲求不満と性への好奇心を募らせていた姫子は、ある日、強く惹かれるものに出会ってしまった。

『メール調教』

その言葉を知ったのは、利用しているウェブサイトの18禁無料掲示板からだった。
スレッド主は「出会い系サイトだと金がかかるので、こっちで調教されたい子を探してます」とコメントしている。
気になってネットで検索して調べてみたら、なんだか魅力的な行為に思えたのだ。

(…出会い系かぁ…)

――出会い系には良い感情がなかった。
ストーカー犯罪や殺人事件などの報道で、切っ掛けとしてよく聞くからだろう。


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