進学した大学は別だったが、今でも付き合いのある友人と、姫子は海に旅行にきていた。
夏という季節は心を緩め、大胆にしてしまうらしい。
用心深く控えめな性格の姫子も例にもれず、夏の開放感に浸り、普段なら出来ない行動を起こしていた。


「――海で声かけてきた2人、好青年って感じのイケメンだったよねぇ〜」

「愛梨ったら…ナンパに応えるんだもん、びっくりしちゃった」

「えー、ただ一緒に遊んだだけだし、あんなのナンパにもはいらないって! 姫子はもうちょっと遊んだ方が良いんじゃない?」


友人の明け透けなからかいに頬を染めながら、それでも昼間、海で出会った男たちを思い出してしまう。
筋肉のついた肌を綺麗に焼き、明るく溌剌とした笑顔は確かに素敵だった。
初対面の男相手には逃げ腰がちになる姫子なのに、夏の解放感がそうさせたのか、ナンパを受け入れる愛梨を止めなかった。
肌を舐めるような視線やボディタッチに男たちの下心は確かに感じたが…ゾクゾクと高揚した気持ちになったのを思い出す。

( でも…もう会うこともないだろうし、夏の思い出って感じで良かったのかも… )

そう考えた姫子だったが――。


* * * * * * * * * *


「ねえ、もしかして君たち…」


旅館の食事場所から部屋へと帰る道すがら、そう声をかけてきたのは件の2人組みの男たちだった。
どうやら同じ旅館の宿泊客だったらしく、色男2人との再会に愛梨は上機嫌だ。
もう会うこともないと思っていただけに、姫子はいつものように気後れしてしまっていた。

( もう、愛梨ってば、イケメンに見境なさ過ぎじゃないの…? )

いつの間に誘われたのだろう。
少し話して別れてから部屋に戻った後、性に対して奔放な友人は、教えられたという彼らの部屋に行ってしまった。
そこでどう彼らが過ごしているのか、分からないほどウブではない。
かと言って経験がある方でもない姫子は、落ち着かない時間を過ごしていた。

( 今頃エッチなことしているのかな…3人で…? )

そう考えては頬が熱くなる。
自分にはない貞操観念の緩さを持つ友人を、いやらしいと思うし、眉を顰めることもあった。だが……。
今はまるで羨むように、身体の内側がジリジリと疼いてしまう。
それこそ淫乱な女になったようで姫子はひどく困惑した。

――と、その時だった。

ドアベルが鳴らされた。
愛梨が帰ってきたのだろうか?
不用心にも確認もせずに扉を開け、…立っていたのは例の男の1人だった。
先ほどまで考えていただけに、思わずギクリと体が硬直する。
目を見開いて見上げてくる姫子に、男は何でもないように笑いかけてきた。


「さっき振りだね姫子ちゃん。今、愛梨ちゃんが俺らの部屋に来てるんだけど…」


笑って話しかけながら、男の手が扉を押さえて、姫子の手からドアノブを奪う。
ドキン…ドキン…ドキン…。
姫子の心臓が大きく、早く打ち始める。
思わず後ずさりした彼女を見つめて、男は楽しげに唇を歪めた。


「すごいよね、あの子。どんなプレイもヤらせてくれそうなビッチ。俺の友達、盛り上がっちゃって、腰振りまくってるんだよ」

「……え…? あ、あの…」

「尻軽な愛梨ちゃんとのセックスも良かったけど、俺としては…姫子ちゃんに興味あるんだよねぇ…」


好青年の顔をしていやらしい言葉を躊躇いもなく言い放つ。
人の良さそうな男の表情が、言い終わると野蛮なものに変わった。
驚いて目を見開く姫子の肩を押して、部屋の中へと入ってきてしまった。
男の背後でオートロックの音が鳴る。
部屋の中には男と女が、2人だけ。


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