あのときは幸せだった。


俺は孤児院出身だ。町の外れにあった孤児院。

俺は親の顔は知らないし、そもそも生きてるのかもわからない。でもあいつらがいたから楽しかった。幸せだった。

ただ、先生には反抗的だったけどな。



でも、ある日火事でなくなったんだ。…町全体が。

…いや、本当はただの火事ではない。世間では火事として扱われているが本当は――――。



あの日は日が沈んだあと…そう、みんなが普段勉強する部屋で双子の姉妹と遊んでいたときだった。

やけに外が明るかった。


「なーにー?」

「今って夜だよね?」

「町が…………!?」


外は真っ赤だった。空が夕焼けみたいに………。

俺は何が起こってるかなんとなくわかったが、2人はまだ4、5歳だったときだ。多分わかっていなかっただろう。

そのとき、先生が廊下を走ってくる音が聞こえた。


「皆さん!ここから出ますよ!!」

「急いで!」


先生達の子ども達に呼び掛ける。

「なんだろー?」

「なんでなんで?」


俺は咄嗟に飾られていた薙刀を持った。

ある先生の私物だ。この勉強部屋はその先生の私物がたくさん置いてあって、それにこの薙刀も含まれていた。大切なものらしい。

勉強はその先生が全部教えていたからな。自分の部屋のように使っていたんだろう。


「彪斗にーちゃんそれさわっちゃダメだよ!」

「先生におこられちゃうよ!」


何が起こっているかわかっていない2人は決まりを守る。だが、今回は……


「大丈夫大丈夫。どうせあのクソジ………いや、先生のやつだろ。怒られても大したことないって。それよりも早く出るぞ。」


もし、『そのとき』になっても、魔法を使える自信がなかった。




「さあ、順番に、静かにここから出てね。」


入れば床下から外に出られる。外に出たら、裏の森を抜けて町を出る。
ある先生が1人先に行った。先頭でみんなを連れていく先生だ。
そして先生が何人か見当たらない。


「先生はー?」


「先生達は、後ろからついていくよ。」


「はーい。」


子ども達は先生の言う通りに床下へ。俺は順番では双子のあとの"最後"。


「そういい子ね。」

「すぐに戻ってこれるから。」

「うん………」



「さあ、彪斗も行きなさい。」


ついに俺の番。ここにいるのは俺と2人の先生。


「最後ってさ……先生じゃなくて俺なんだろ?」


「……………。」


思っていた通りだった。先生達は表から出るんだろ?……すぐそこまで来てるんだろ?


「…彪斗。」


「俺が最後に出るなんて嫌だからな。」


「彪斗………最後まで反抗しないで…。」


「最後ってなんだよ!!さっきすぐに戻ってこれるって言ったよな!?嘘つくなよ!!」


「彪斗。」


「…………」



「またみんなで会いましょう。」







「あの…何か用でしょうか?」


呼び掛けられてはっ、と気が付く。初めて訪れたこの町に孤児院があると聞いてここまで来たのに、昔のことを思い出してしまった。


「あ、ちょっと聞きたいことが……」


「なんでしょうか?」


「『羽伝孤児院』という孤児院を知らないか?」


俺はその孤児院のみんなに会うためにいろんな町を訪れている。別の孤児院に行けばもしかしたら会えるかもしれないと思って。


「いえ…知りませんけど……あ、ちょっと聞いてきますね。」


いつも通りの返答。ここまで来ると本当にあったのかと思ってしまう。…夢ではないのに。


「あ、いや多分もうなくなってると思うから……」


「なくなってる?」







暗い森の中をただただ走り続ける。時々、暗い森を赤い光が一瞬照らす。

さすがに怖くなるだろう、泣き出す子どもも出てきた。


「お願いだから静かにして………!」


先頭にいる先生が言っても子ども達は言うことを聞かない。


「なんでだよ……子どもは関係ないだろ………!」


俺が言った直後、赤い光が今までのものよりも近いところで着弾し、木が数本燃え始めた。

みんな悲鳴を上げる。

その中で1人、集団から飛び出して走り出してしまった子がいた。それにつられてみんないろんな方向に走り出してしまった。


「みんな!ダメ!!」


先生が叫ぶが、その声は届かなかった。


俺は思わず、双子のあの子達が駆け出した方向に走り出してしまった。






どれくらい走っただろうか。2人が見つからない。
辺りを見回すが、誰もいない。一瞬の赤い光もなく、聞こえるのは虫の声と風の音。とても静かだった。


背負った薙刀が重く感じる。そうだ、勝手に持ち出してごめんなさい。

………もう、疲れた。







「ああ、火事でなくなったあの町ですか。」


「知ってるのか!?」


「いえ、噂程度にしか…………」


「ああ、そうか…」


今までいろんな町に行ったが、どこも『火事でなくなった町』と言うと噂程度にしか話を聞けない。そこに『羽伝孤児院』があったなんて誰も知らないんだ。

俺はあの町から逃げたとき、何も考えずに走り出した。結局2人を見失って、方角もわからないままさまよった。
もし、あのとき光がこっちに来なければ…みんな一緒に別の町に行けただろうか。
俺はさまよった挙げ句、他民族の町へ。

孤児院へ戻ろうとした。でも戻れなかった。来た道なんて見えなかった。


「…ありがとう……。それを聞きに来ただけなんだ。」


「そうですか、それでは。」


女の人は孤児院の中へ入っていった。俺も戻るか………。


今では、あの日の出来事が夢だったんじゃないかと思ってしまう。

でもあの孤児院は、『羽伝孤児院』は夢なんかじゃない。夢だと思わないように、『羽伝彪斗』と名乗ることを、旅を始めるときに決めたんだ。

薙刀も極力使わない。返さないといけないからな。


「あ、あの!」


さっきの女の人が後ろから追いかけてきた。


「…何か?」


「願いが叶う宝物の伝承を知ってますか?」


「願いが…叶う?」


女の人はその話をしたあとすぐに孤児院に戻った。
その話はただの伝承らしい。本当にあるかもわからない。


「ははっ、どっちが早いかな。」


バラバラになったみんなを探すのと、本当にあるかわからない宝物を探すの……どちらも気が遠くなるな。

でも俺は、みんなに会えるならそれでいい。先生に会ったら謝りたい。この薙刀も返すんだ。


そうだな…いろんな町に行って伝承も孤児院もどちらの情報も集めればいい。


…あのクソジ…いや、先生に言われそうだな。


「『二兎を追う者は一兎をも得ず』、だろ?クソジジ……先生。昔習ったことでもちゃんと覚えてるぞ。」



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