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「#切ない」のBL小説を読む
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適切な距離(月島)

巷じゃ夏休みも終わり、多くの大人子供が現実へと引き戻される9月の頭。
そこを狙って取った連休がやっと訪れた私はそれはもう嬉しくて嬉しくて。
ジメジメはしているものの残暑の厳しさは思ったより辛くなく、今日の為に新調した膝丈のスカートを翻し日除けに被った帽子のツバを弄りながら私は隣を歩く恋人を盗み見るように見上げた。

「休み、合わせてくれてありがと」
「別に。それより折角のデートがこんなところで良かったの?」

相変わらず感情の起伏がほぼ皆無な声で'こんなところ'と揶揄されたのは様々なタイプの家が立ち並ぶ住宅展示場。そう、それは新居の購入を考えている家族や新婚さんの聖地。寧ろ交際期間がそれなりになって来た私達にとっては今後のことも考えられる最高のデートスポットなのではないだろうか。長期連休明けの平日と言うこともあり客足も疎らでスタッフの人数も少なくどうにも活気のない空気感だが、まだ購入する予定のない私達にとっては却って都合が良かった。

入口のバルーンアーチを通り抜けコの字型に並んだ家を左側から順に見て回る。
今流行の二世帯住宅から始まり玄関口がスロープになっている家、キッチンスペースの広い家、リビングが吹き抜けになっている少しお高めな家…と、多種多様な建物を心躍らせながら内覧して行く。
勢いでやって来たこともあり正直あまり現実味のない空間にレジャー施設感覚で高まるテンションに身を任せペラペラと一人言のように言葉を発していると、二世帯住宅だけは嫌だと蛍君の呟きがポツリと聞こえたが何故かと問うより先にその表情からご両親よりもお兄さんの存在が脳裏にチラついたので軽く笑って返しておく。

私が先導する形で回って行き、いよいよ最後の建物へ。
展示してある中では一番敷地面積の少ないこじんまりとした小さな家だ。
一階は12畳のLDKにお風呂とトイレ、入ってすぐ右手に階段があり3部屋あるらしい二階へと続いている。
一階を内覧し終え少し急な階段を登り始めると窓の多いその家には開け放たれた玄関から心地好い風が舞い込み、被っていた帽子がふわりと浮き上がる。
それを慌ててキャッチし緩く畳みながらバッグの中へしまおうと振り返った先には階段分いつもより近い蛍君の顔。
しかし階段一段程度の高さでは視線を合わせるにはまだ足りない。
かと言ってもう一段登ってしまうと距離が遠くなる。
そんなジレンマから刻まれた私の眉間のシワに気が付いたのかその考えまでもを見透かした蛍君はあの意地の悪い笑みを浮かべていた。
私は悔しさからもう一段先を行くと目一杯腕を伸ばして金色の中心を指の先で押してやる。

「いい度胸だね」
「たまには見下ろしたいんですぅー」

傍から見たらただのバカップルだろうけど、どうせ人もいないし少しくらいはいいでしょ、なんて思いながら二階もしっかり見終えて再び階段へ。
嫌そうな顔をしながらも私に促されるまま先を降りる蛍君は背後からの攻撃を警戒して今度はしっかりと旋毛を手で覆いながら降りて行った。

足早に一階へ降り立ち玄関で靴を履く蛍君に追いつくと私はここであることに気付いてしまう。
そう、この玄関の上がり框こそ私達の身長を埋めるには最適な高さだったのだ。
私は人がいないのをそれとなく確認してから少し背伸びをして靴を履き終え立ち上がった蛍君の薄い唇に自分のそれを重ねた。

「行ってらっしゃい」

まるで新婚さんの朝の見送り。
呆気に取られる蛍君の顔が何だかおかしくて、私は思わず小さく吹き出す。

「…なんちゃって。ビックリした?」

一瞬驚いたように見えた蛍君だったけど、したり顔で笑う私にすぐに冷めた視線を返すと一転してニッコリと爽やかな、しかし何処か裏のある笑みを貼り付けて私の腕を引き

「帰ったら覚えてなよ」

そう耳元で囁いた。
2度の悪戯の代償は大きそうだ。

   <<clap!>>